スマホゲームの「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」が大ヒットしていた頃、運営元の月間売上が数十億円という記事を見て、軽く衝撃を受けた記憶があります。当時、友人と「ガチャに課金する人がこれだけいたら、月にいくらになるんだろう」と試算しながら、その金額の大きさに二人でため息をついたものです。
あれから時が経ち、状況は少し変わりました。WHO(世界保健機関)が「ゲーム障害」を正式な病気として位置づけ、香川県では全国で初めてネット・ゲーム依存をテーマにした条例もできました。ゲームとの距離感は、いまや社会全体で考えるテーマになっています。
この記事では、ソーシャルゲームの課金やのめり込みやすさの仕組みを整理しつつ、ゲーム障害という考え方や、ゲームと無理なく付き合うための工夫を、できるだけ事実に沿って落ち着いてまとめます。
かつて漫画『魔人探偵脳噛ネウロ』が描いたネットゲームにのめり込む人物の姿は、今読み返しても考えさせられるものがあります。ゲームの世界に夢中になるあまり、目の前の生活がおろそかになっていく描写は、誇張だと笑い飛ばせない生々しさがありました。当時は「ここまでの人はさすがにいないだろう」と思って読んでいたのですが、スマホゲームが当たり前になった今、あの姿は決して他人事ではなくなってきたように感じます。
あの一幕を入り口に、ゲームを楽しみながら生活を守るにはどうすればいいのか、一緒に見ていきましょう。具体的には、ガチャや課金がなぜのめり込みやすいのかという仕組み、WHOが定めた「ゲーム障害」という考え方、香川県の条例にみる社会の動き、そして日々の付き合い方の工夫まで、順を追って整理していきます。読み終える頃には、自分や家族のゲームとの向き合い方を見直すヒントが見つかるはずです。
そもそもパズドラの何がすごかったのか
パズドラがこれほど広く遊ばれた理由のひとつは、誰でも無料で始められて、すきま時間にサッと遊べる手軽さにありました。それまでオンラインゲームは一部のコアなユーザーのものという印象が強かったのですが、スマホの普及とともに、ふだんゲームをしない層まで一気に取り込んだのです。
そして収益を支えていたのが、ご存じ「ガチャ」を中心とした課金の仕組みです。基本プレイは無料でも、レアなキャラクターやアイテムを手に入れるためにお金を払う。この「ゲーム内課金」という考え方を、パズドラをはじめとするソーシャルゲームが一気に身近なものにしました。
私自身、無料で遊べるゲームに気に入ったら課金する、という仕組みそのものを頭ごなしに否定する気はありません。クリエイターの労力に対価を払うのはむしろ自然なことです。ただ、その「払わせ方」には注意して向き合いたい、というのが正直なところです。
ガチャや課金が、なぜのめり込みやすいのか
ガチャは、回すまで何が出るか分からない仕組みです。お目当てのキャラクターが出るかもしれないという期待感が、もう一回、あと一回と手を伸ばさせます。これは「集めたい」「人より強くなりたい」という心理にうまく働きかける設計で、楽しさと熱中の源であると同時に、使いすぎにつながりやすい側面も持っています。
苦労して手に入れたキャラクターが、数か月後のアップデートであっさり主力から外れてしまうのもよくある話です。そうなると、また新しい強いキャラを求めて課金する。こうした循環は、ゲームを盛り上げる一方で、お金や時間の使い方を見えにくくする要因にもなります。
もうひとつ、オンラインゲーム特有の不安がサービス終了です。長く遊んだゲームでも、運営の判断でいつ終わるかは利用者には分かりません。費やした時間やお金が形として手元に残らないのは、買い切りのゲームソフトとは違う点です。だからこそ、「自分はこのゲームに、どこまでなら使っていいか」をあらかじめ決めておく姿勢が、楽しく続けるうえで大切になります。
「ゲーム障害」とは何か ― WHOの考え方
ゲームとの付き合い方を考えるうえで知っておきたいのが、「ゲーム障害(gaming disorder)」という考え方です。WHO(世界保健機関)は、2019年の総会でゲーム障害を国際的な疾病分類「ICD-11」に位置づけることを採択し、この分類は2022年に正式に発効しました。ゲームへの過度なのめり込みが、医学の世界でも一つの状態として整理されたわけです。
ICD-11では、ゲーム障害はおおむね次のような状態が一定期間(目安として12か月以上)続く場合と説明されています。ゲームをする時間や頻度を自分でコントロールできない、ほかの生活上の関心事よりゲームを優先してしまう、学業・仕事・家庭などに支障が出ているのにゲームを続けたり、さらにエスカレートさせたりする、といった点です。
ここで強調しておきたいのは、長くゲームを楽しんでいる人がすぐ「病気」というわけではない、という点です。ゲーム障害はあくまで、生活に明らかな支障が出ているのにやめられない状態を指すものです。自己判断でレッテルを貼るためのものではありませんし、診断は専門の医療機関が行うものです。気になる症状があるときは、まず専門家に相談するのが安心です。
出典・参考:ゲーム障害について(厚生労働省/久里浜医療センター 樋口進 資料)
香川県の条例にみる、社会の関心の高まり
こうした流れを受けて、日本でも具体的な動きが出ています。香川県は2020年4月、全国で初めて「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を施行しました。子どもや県民が健全に暮らせる社会をめざし、正しい知識の普及や予防、相談支援、医療体制づくりなどを掲げた内容です。
この条例には、子どものゲーム利用について「1日あたり60分まで(休日は90分まで)」「スマホの使用は夜9時または10時まで」といった時間の目安が盛り込まれ、大きな話題になりました。これは罰則のある決まりではなく、あくまで保護者に向けた努力義務としての「目安」です。数字の妥当性については賛否もありましたが、ゲームとの付き合い方を社会全体で考えるきっかけになったことは確かです。
大切なのは、時間そのものを一律に縛ることよりも、家庭ごとに納得できるルールを話し合って決めることだと感じます。一方的に取り上げるのではなく、子ども自身が理由を理解して折り合える形が理想です。
出典・参考:ネット・ゲーム依存を予防するために(香川県)
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こんなサインに気づいたら ― 付き合い方の工夫
ゲームを楽しむこと自体は悪いことではありません。それでも、生活のバランスが崩れてきたときは、いくつかのサインが表れることがあります。たとえば、夜更かしや昼夜逆転で朝起きられない、学校や仕事を休みがちになる、ゲームを止められて家族に強くあたってしまう、といったものです。専門の調査でも、こうした睡眠の乱れや生活への影響が多く報告されています。
日々の付き合い方としては、難しく考えすぎず、できる範囲の工夫から始めるのがよいと思います。たとえば次のような方法です。
・1日にゲームに使う時間や、1か月に課金する上限金額をあらかじめ決めておく。
・スマホの利用時間を記録する機能(スクリーンタイム等)で、実際の利用状況を見える化する。
・寝室にスマホを持ち込まない、食事中は触らないなど、ゲームをしない時間帯をつくる。
・子どもの場合は、ルールを一方的に押しつけず、家族で話し合って決める。
もし、自分や家族が「やめたいのにやめられない」「生活に支障が出ている」と感じるなら、一人で抱え込まないことが大切です。各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センター、ゲーム依存の専門外来などで相談できますので、心配なときは早めに専門の窓口へ相談してください。早い段階で第三者に話すだけでも、気持ちが整理されることがあります。
出典・参考:インターネット依存治療部門(久里浜医療センター)
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まとめ ― ゲームを敵にしないために
パズドラの大ヒットは、ソーシャルゲームと課金という文化を一気に広げました。その後、WHOがゲーム障害を疾病として位置づけ、香川県の条例のように社会全体で向き合う動きも生まれています。ゲームは、もはや一部の人だけの趣味ではなく、暮らしのすぐそばにあるものになりました。
『ネウロ』が描いたのめり込みの姿は、決して大げさなフィクションではありません。だからといって、ゲームそのものを悪者にする必要はないと思います。仕組みを知り、自分なりの線引きを持っておけば、ゲームは生活を豊かにしてくれる存在です。
ガチャや課金が熱中を生みやすい仕組みであることを知っておくこと、自分なりの時間や金額の上限を決めておくこと、そして生活に支障が出ていないかをときどき振り返ること。難しいことではなく、こうした小さな意識の積み重ねが、ゲームと長く心地よく付き合うための土台になります。大事なのは、ゲームをやめることではなく、ゲームに生活を奪われないように、お金と時間との距離感を自分でコントロールすることです。
そのうえで、もし「やめたいのにやめられない」「生活がうまく回らなくなってきた」と感じたら、無理をせず専門の医療機関や相談窓口に頼ってください。一人で抱え込まず早めに相談することは、決して特別なことでも恥ずかしいことでもありません。楽しむ気持ちと、自分や家族の暮らしと、その両方を大切にしながら、これからもゲームと上手に付き合っていきたいですね。