就職や転職の活動をしていると、誰もが一度はこう思うはずです。「どうやって自分を売り込めば、人事の人に振り向いてもらえるんだろう」と。たいていは決まった書式の履歴書に、無難な志望動機を並べるのが精いっぱい。そんな中で、ある男性が「自分自身をアマゾンの商品ページに仕立てる」という発想で世界中の注目を集め、なんと採用オファーが100件以上も舞い込んだという話があります。
本記事では、2013年に話題になった「アマゾンそっくりの履歴書」の元ネタと、その内容が事実なのか、それとも盛られた『※(ただしイケメンに限る)』なネタなのかを、海外ソースをたどりながら検証していきます。
当時この話を見て「面白い!」と思う一方で、運営者である私もWeb制作の仕事を長くやっている身として「これ、本当にこの仕掛けだけで採用が決まったの?」と少し疑ってかかった記憶があります。今回あらためて出どころを調べてみると、ネタっぽく見えて意外としっかり事実が確認できる部分と、ハッキリしない部分の両方がありました。
この記事を読むと、(1)そもそもアマゾン風履歴書とはどんなものだったのか、(2)採用オファーや閲覧数の数字はどこまで本当なのか、(3)作った本人はちゃんと就職できたのか、(4)そして元記事の主題でもある「これって結局イケメンだから成功したんじゃないの?」というネタ的疑惑への答え、の4点がスッキリ分かります。
結論から軽く触れておくと、「アマゾン風の履歴書を作った人物」も「大量のオファーが届いた」も、複数の海外メディアで裏が取れる実話です。ただ、ネット上で語り継がれるうちに微妙に数字や尾ひれが変わっている部分もあり、そこは正直に「ここは確認できない」と分けて書いていきます。
そもそも「アマゾンそっくりの履歴書」とは何だったのか
話題の主は、フランス・パリ在住のWebプロダクトマネージャー、フィリップ・デュボ(Philippe Dubost)さん。2013年1月、新しい仕事を探していた彼は、ありきたりな履歴書を送る代わりに、自分自身をアマゾンの商品ページそっくりのWebページに仕立てて公開しました。
ページのタイトルは自分の名前、商品画像のところには自分の写真。星5つのレビュー評価がつき、「在庫残りわずか」といったあおり文句まで再現されています。商品スペック欄には身長186cmや話せる言語(彼はトリリンガル)が並び、「世界中どこへでも発送可能」「ギフトラッピング対応」といったジョークも仕込まれていました。
極めつけは「カートに入れる」ボタンで、押すと連絡フォームが立ち上がる仕組み。つまり「気に入ったら採用の連絡をどうぞ」というわけです。さらに「よく一緒に購入されている商品」としてスニーカーと航空券が表示されるなど、細部までアマゾンのUIを忠実に再現していました。Web屋の視点で見ると、このディテールへのこだわりがそのまま彼のスキルの証明になっているのが秀逸です。
このページは現在もphildub.comで記念として残されており、誰でも当時のデザインを確認できます。元記事で「これは面白い」と紹介していた通り、ネタとしての完成度はかなり高いものです。
参考リンク:An Amaz-ing Resume – Philippe Dubost(本人の履歴書ページ)
「採用オファー100件以上」「閲覧20万件」は本当なのか
元記事ではCNNを引用して「採用関連のメッセージが100件以上」「1日あたりの閲覧回数が20万件」と紹介していました。ここがいちばん「盛ってない?」と疑われやすいポイントなので、海外ソースで確認してみます。
複数のメディアによると、デュボさんが受け取ったメッセージはおよそ800通で、そのうち仕事関連のオファーが100件以上、アジアやヨーロッパの企業から届いたとされています。この「800通中100件以上が仕事関連」という数字は、TODAYやcareerfair.ioなど複数の記事で一致しており、信頼してよさそうです。
一方で閲覧数については、メディアによって書き方にばらつきがあります。「公開から7日で100万ビューを超えた」とする記事もあれば、本人のページには「2013年3月26日時点で150万人以上の訪問者を経て就職が決まった」と書かれています。元記事の「1日20万件」という数字も、爆発的に伸びていた時期の一時的なピークとしては矛盾しません。要するに「ものすごい数の人が見たのは確実だが、正確な1日あたりの数字は出典によって幅がある」というのが正直なところです。
数字の細部はともかく、「アマゾン風履歴書で大量の反響と仕事のオファーが集まった」という骨子そのものは、複数の海外メディアで裏が取れる事実と言えます。ここはネタではありませんでした。
参考リンク:Job seeker sells himself with viral Amazon resume(TODAY)
結局、彼はちゃんと就職できたのか?
「話題にはなったけど、肝心の就職はどうなったの?」という点も気になるところです。これも調べてみると、本人のページにハッキリと答えが書かれています。
phildub.comには「2013年3月26日、150万人以上の訪問者を経て、職を得た」という趣旨の追記が残されています。つまりこのアマゾン風履歴書は、本来の目的である「就職」をきちんと達成したわけです。一発ネタで終わらず実利につながったあたり、企画として完成していると言えます。
ちなみに、彼の試みは当時のメディアからも高く評価され、Mashableが「これまで見た中でベストのオンライン履歴書」と評したという話も出てきます。ネット上では模倣する人やテンプレ的に真似する動きも生まれ、「フェイスブック広告を履歴書代わりにした人」など、別の発想で売り込む後追い事例も紹介されています。ただし「デュボさんのアマゾン形式をそっくり真似た人が大量に出た」とまで言い切れる確かなソースは見当たらなかったので、ここは「影響を受けたユニーク履歴書がいくつか登場した」くらいに留めておきます。
本題:これって結局『※(ただしイケメンに限る)』なのか
さて、元記事のいちばんの主題はここでした。「面白い企画なのは認めるけど、結局この人がそこそこ見栄えのする男性だったから成功したのでは?」という、ネットでおなじみの『※(ただしイケメンに限る)』疑惑です。元記事では、ひろゆき氏や2ちゃんねるの人気コテハン「ぼっさん」の画像を当てはめて、半分ふざけながら検証していました。
これについては、はっきり言って客観的に検証できる話ではありません。容姿が反響にどれだけ影響したかを示すデータは存在せず、本人や各メディアもそこには触れていません。なので「イケメンだから成功した」と断定するのは、それこそネット特有の決めつけになってしまいます。
ただ、Web制作の現場感覚で言わせてもらうと、この企画が刺さった本当の理由は顔ではなく「ターゲットに刺さる見せ方を、職種の専門性そのもので証明した」点にあると思います。彼はWebプロダクトマネージャー。アマゾンのUIを細部まで再現できる時点で、「この人はWebのことが分かっている」という説得力が生まれます。職務内容と表現方法がピタリと噛み合っているからこそ、企画が単なる悪ふざけで終わらなかったわけです。
逆に言えば、無関係な人の写真を当てはめてもしっくりこないのは当然で、元記事の検証で「なんだか気持ち悪い」「人探しのポスターみたい」になってしまったのも、顔の良し悪しというより中身とガワが噛み合っていないからだと考えると腑に落ちます。『※』というより、「自分の強みと表現がマッチしているか」が肝、というのが個人的な見立てです。
ユニーク履歴書から学べる、普遍的な自己PRのコツ
このネタを単なる笑い話で終わらせるのはもったいないので、雑学ついでに「ユニークな自己PR」という観点で少しだけ普遍的な部分を拾っておきます。
デュボさんの履歴書が優れていたのは、奇抜さそのものではなく、「相手が普段見慣れた形式を借りて、自分の情報を分かりやすく整理した」ところです。アマゾンの商品ページは、スペック・レビュー・関連商品といった形で情報がきれいに構造化されています。その器に自分を流し込むことで、ふざけているようでいて中身はちゃんと伝わる作りになっていました。
奇をてらった応募方法は、ハマれば強力ですが、ズレると「ただ目立ちたいだけの人」に見えてしまうリスクもあります。応募する職種や企業の文化に合っているかどうかが分かれ目で、Web系やクリエイティブ職なら好意的に受け取られても、堅い業界では逆効果になることもあるでしょう。そのあたりの見極めも含めて「自分を売り込む」ということなのだと思います。
自分の適性や強みをまず整理したい、という方には、WeberNoteで以前紹介した職業適性診断の記事もヒントになるかもしれません。
関連記事:転職・就職活動中の方必見!自分に合う職業がわかる「どこより正確な職業適性診断」
まとめ:ネタに見えて、骨子はちゃんと実話だった
あらためて整理すると、フィリップ・デュボさんの「アマゾンそっくりの履歴書」は、複数の海外メディアで裏が取れる実話で、本人もこの履歴書をきっかけにきちんと就職を果たしています。一方で「1日20万件」といった細かい数字は出典によって幅があり、『※(ただしイケメンに限る)』かどうかは客観的に検証できない、というのが今回の結論です。
つまり「アマゾン風履歴書でオファー殺到」は事実、「イケメンだから成功した」は検証不能なネット的決めつけ、というのが正直なところでした。
元記事ではひろゆき氏やぼっさんの画像を当てはめて『※』疑惑を笑いに変えていましたが、今回じっくり調べてみると、この話はネタとして消費するにはちょっともったいない、よくできた事例だと感じました。本人の履歴書ページが今も残っていて当時のデザインを確認できるのも、検証する側としてはありがたいところです。気になった方は実際に見てみると、細部の作り込みにきっと感心するはずです。
ネタとして楽しみつつ、成功の本質が「自分の強みと見せ方をピタリと合わせたこと」にあると考えると、就職や転職に限らず、何かを発信するときの参考になる話です。突飛なアイデアそのものより、それが相手や目的にちゃんと噛み合っているか。アマゾンのUIを忠実に再現できるWebのプロが、自分という商品をその器に流し込んだからこそ、悪ふざけで終わらず仕事につながった。デュボさんの履歴書は、奇抜さと中身がきれいに両立した稀有な成功例として、十数年たった今あらためて眺めても面白い一件だと思います。