
2025年春。トランプ現大統領の強硬な通商政策が再び市場を揺るがしました。米中の関税が急激に引き上げられ、一時的に世界の株式市場は大きく混乱。S&P500や日経平均をはじめ、多くの主要株価指数が急落しました。特に株式投資をしている個人投資家にとっては、不安な日々が続いたはずです。
「このまま持ち続けていいのか…」「損が拡大する前に売った方がいいのでは?」そう感じた方も少なくないでしょう。
特につみたてNISA(少額投資非課税制度)を利用している人の中には、「長期投資って本当に意味あるの?」と疑問を抱いた人もいるかもしれません。ニュースでは「関税合戦」「インフレ再燃」「金融引き締め」など不安をあおる言葉が飛び交い、投資初心者の心をさらに揺さぶります。某掲示板などでは「NISA損切民」というワードまで生まれる始末。
正直私もトランプ政権の無茶苦茶とも言える政策に売却も頭をよぎりました。でも、そこでいったん落ち着いて考えてみました。つみたてNISAはそもそも、こうした短期的な市場の荒波を乗り越えるために設計された制度です。焦って売ることが、本当に正しい判断なのでしょうか?
この記事では、株価急落時でも「つみたてNISAは売らずに持ち続けるべき理由」を、最新の市場動向とデータを交えて、初心者にもわかりやすく解説します。
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つみたてNISAの基本設計が「持ち続ける」ことを前提にしている
つみたてNISAは2018年に始まった制度で、長期・積立・分散投資を支援するための国の施策です。特徴は以下のとおり。
- 年間の非課税投資枠:120万円(2024年以降拡充)
- 非課税保有期間:最長20年間
- 対象商品:金融庁が厳選した投資信託・ETF
- 積立方式:毎月一定額を自動で投資
制度設計そのものが「短期で売買して利益を狙う」のではなく、「時間をかけてコツコツ資産を育てていく」ことを前提にしています。
特に「ドルコスト平均法」という考え方は、価格が下がったときに多く買い、上がったときに少なく買うという仕組みを自然に作ります。下落はむしろ“安くたくさん買えるチャンス”でもあるということを頭に入れておくことが大切です。
2025年の市場混乱と投資家の心理
2025年4月、トランプ現大統領は中国との通商交渉で強硬策に出て、米中の相互関税は以下のように急激に引き上げられました。
項目 | 変更前 | 変更後 |
---|---|---|
米国の対中関税 | 30% | 145% |
中国の対米関税 | 10% | 125% |
この発表を受け、S&P500は一時10%以上急落。世界中の投資家がリスクオフに走り、日本市場でも日経平均株価が一時2万7,000円を割る場面がありました。こうした局面で「もう無理かも」と思って売却してしまう、いわゆる“狼狽売り”が多発します。
しかし、その数週間後に大きな転機が訪れました。米中が「90日間の関税休戦」に合意し、関税水準が元に戻されたのです。市場は即座に反応し、S&P500は反発。わずか数週間の間に市場は大きく回復しました。
なぜ「売らずに持ち続ける」ことが正解なのか?
理由は明確です。投資の成果を左右するのは「いつ買うか」でも「いつ売るか」でもなく、「どれだけ長く保有したか」によるからです。
米国の金融調査機関Dalbarのデータによれば、1994年から2023年の30年間でS&P500の年平均リターンは約10%。一方、短期で売買した個人投資家の実質年利はわずか3~4%にとどまっています。要因は以下のとおりです。
- 下落時に売って損失を確定
- その後の回復局面を逃してしまう
- 心理的に高値で買い戻せない
たとえば、2008年のリーマンショックでは株式市場が約半分に暴落。しかし、その後10年間で主要指数は3倍以上に成長しています。短期的な下落を耐えられた人だけが、長期リターンを手にできたのです。
「タイミング投資」の難しさ
「株価が下がりそうだから一度売って、上がりそうなときに買い直せばいいじゃないか」そう思ったことは誰しもあると思います。
このような投資方法を「タイミング投資(マーケットタイミング)」と言います。理屈では正しそうに聞こえますが、実際にはプロの投資家ですら成功させるのが難しい手法です。なぜかというと、「市場が一番上がるタイミング」は、年間でもほんの数日しかないからです。その数日を逃すだけで、資産の増え方がまったく違ってくるのです。
たとえば、アメリカの大手金融機関JPモルガンが発表したデータ(1999年~2019年の20年間)によると、次のような結果が出ています。
- ずっとS&P500に投資し続けた場合(フルインベスト)→ 年間の平均リターンは「+7.0%」
- 最も上昇した10日間だけ投資していなかった場合→ 年間の平均リターンは「+2.4%」まで下落
たった10日、しかも20年のうちの「最も上がった10日」だけを逃しただけで、リターンはほぼ3分の1まで減ってしまったということです。これはつまり、市場から一度でも離れると「最も利益が出る日」を逃してしまう可能性があるということ。そして、その「最も利益が出る日」は、多くの場合、大暴落の直後に訪れることが多いのです。
つまり「怖いから一度売ろう」と思った直後に、上昇が始まってしまうパターンが多いのです。「損を確定して、上昇を逃す」という流れが、タイミング投資の落とし穴です。
市場を正確に予測するのは極めて困難。世界中のプロが日夜チャートを分析しても、未来を完全に読むことはできません。であれば、最も賢い戦略は「市場に居続けること」ということになります。
つみたてNISAの最適解は「ほったらかし×積立継続」
つみたてNISAの最強の戦略は「ほったらかし」。見ない。慌てない。売らない。
そのうえで以下を実践しましょう。
- 毎月一定額の積立を継続
- 分散投資(全世界株やバランスファンド)
- 最低でも5〜10年スパンで考える
一時的に資産評価額が下がっても、非課税で再上昇する余地を残しておくことが、最大の利益に繋がります。
まとめ
市場が荒れるとき、人の感情は揺れます。「もう怖くて持っていられない」という気持ちは、当然のことです。でも、つみたてNISAはその“揺れ”に耐えるために作られた制度です。
非課税の20年間という長い時間は、短期の価格変動を十分に吸収する力を持っています。積み立ててきた時間も、少しずつ積み上がってきた口数も、今この瞬間の価格で評価されるべきものではありません。
繰り返しになりますが、重要なのは「市場にいること」「焦らず、投げ出さず、積立を続けていくこと」です。
リーマンショックもコロナショックも、2025年の関税ショックも、長期で見れば通過点にすぎません。長い航海の中で、多少の嵐があっても、船を降りない限りゴールにたどり着くことができると思います。