Wordの書類をPDFにしようとして、[ファイル]を開いたところで手が止まったことはないでしょうか。[名前を付けて保存]の中にPDFがあり、すぐ下の[エクスポート]にもPDFがあり、[印刷]の一覧には「Microsoft Print to PDF」というプリンターまで並んでいます。
3つとも同じ結果になるならわざわざ3つに分かれていないはずですが、画面のどこにも違いは書いてありません。
私はこれで一度やらかしています。仕事の確認用資料をWordからPDFにして送ったら、「目次をクリックしても飛ばないんですが」という返信が来ました。そのときは[印刷]から作っていて、作り方でPDFの中身まで変わるとは、その瞬間まで思っていなかったんです。見た目は完璧でしたから、なおさら気づけませんでした。
Wordから PDF を作る道は3つあり、[名前を付けて保存]と[エクスポート]は入口が違うだけの同じもので、[印刷]だけが中身の違う別物です。
もうひとつよくあるのが、出来上がったPDFを開いたら書体が違う、画像が1ページ下に落ちている、という崩れ方。これは変換機能の不具合ではなく、Word側に埋め込まれていないフォントと、画像の[文字列の折り返し]という設定が効いている場合がほとんどです。
目次の件があってから、人に渡すPDFは[エクスポート]から作るようになりました。結果は[名前を付けて保存]と変わらないのですが、[オプション]ボタンが同じ画面に見えているぶん、押し忘れずに済むので。
作り方は3通り。違いは[オプション]を開けるかどうか
違いだけ先に並べます。
- [名前を付けて保存]から、[ファイルの種類]でPDFを選ぶ
- [エクスポート]から、[PDF/XPS ドキュメントの作成]で発行する
- [印刷]で、プリンターに「Microsoft Print to PDF」を選ぶ
このうち上の2つは、入口が違うだけの同じ機能です。どちらも同じ[オプション]ダイアログが開くので、設定をそろえれば出てくるPDFも変わりません。
問題は3つ目。[印刷]から作るルートには、その[オプション]自体がありません。
では[オプション]で何が決まるのか。見出しからしおり(ブックマーク)を作るかどうか、読み上げソフトが拾うためのタグを付けるかどうか、長期保存向けのPDF/Aという形式にするかどうか、パスワードを掛けるかどうか。つまり[印刷]から作ったPDFは、紙に刷ったものをそのまま写した状態で、しおりもタグも入っていません。
私が言われた「目次をクリックしても飛ばない」は、まさにこれでした。文書内のリンクは印刷の対象ではないので、プリンターを通した時点で落ちてしまうわけです。
Windows版Wordの手順(2通り)
[名前を付けて保存]から作る
- [ファイル]タブを開きます
- [名前を付けて保存]を選び、[参照]で保存先のフォルダーを指定します
- [ファイルの種類]のドロップダウンから[PDF (*.pdf)]を選びます
- 必要なら[オプション]ボタンを押し、中身を確認して[OK]を押します
- [保存]を押します
手順3でPDFを選ぶと、ファイル名の下に[最適化:]という欄が現れます。ここで選んだほうによって画質とファイルサイズが決まるので、にじんだPDFができたときに戻ってくる場所です。
[エクスポート]から作る
- [ファイル]タブを開きます
- 左の一覧から[エクスポート]を選びます
- [PDF/XPS ドキュメントの作成]を選び、中央の[PDF/XPS の作成]ボタンを押します
- [最適化:]で[標準(オンライン発行および印刷)]を選びます
- [オプション]で中身を確認し、[発行]を押します
[オプション]で決められること
Wordの[オプション]ダイアログには、次の項目が並びます。
- ページ範囲
- 発行対象([文書]か[変更とコメントの内容を含む文書])
- 次を使用してブックマークを作成([見出し]か[Word ブックマーク])
- 文書プロパティ
- アクセシビリティ用のドキュメント構造タグ
- ISO 19005-1 準拠 (PDF/A)
- フォントを埋め込むことができない場合のビットマップ テキスト
- パスワードで文書を暗号化する
ここでいちばん事故が起きやすいのは[発行対象]だと思います。[変更とコメントの内容を含む文書]のままだと、右の余白に社内のコメントが並んだPDFがそのまま相手に届きます。社外に出す資料では、ここが[文書]になっているかだけ必ず見てください。
長い資料なら、[次を使用してブックマークを作成]に[見出し]を指定しておくのも手です。Wordの[見出し 1][見出し 2]スタイルで組んだ見出しが、そのままPDFの左側のしおりになります。
Mac版Wordは「印刷用に最適」に気をつける
Mac版はメニューの並びが違うので、Windowsの手順をそのまま読み替えようとすると迷います。
- [ファイル]を選びます
- [名前を付けて保存]または[コピーを保存]を選びます
- ウィンドウ下部の[ファイル形式]を選びます
- 一覧から[PDF]を選びます
- ファイル名を付けて[保存]を押します
気をつけたいのが、この画面で選ぶ最適化の種類です。Microsoftのサポートページには、[印刷用に最適]を使うとハイパーリンクが正しく変換されないことがあり、これは Word for Mac の既知の問題だと、はっきり書かれています。
既知の問題、と公式が書いているものは、こちらの操作ミスではありません。URLを載せた資料をMacのWordからPDFにしていて、リンクが青いだけの文字になっていたなら、まずここを疑うといいでしょう。
私はMacを持っていないので、この画面を自分で開いて確かめられません。手元で再現できないことは書かない主義なのですが、公式が既知の問題と明記している以上、Mac版を使う人には伝えておきたい一行でした。
Web版Word(ブラウザ)の手順
ブラウザで動くWeb版のWordにも、PDFの書き出しがあります。会社のパソコンにWordが入っていないときや、共有リンクで開いた文書を手元に残したいときに使う道です。
- 画面上部の[ファイル]を選びます
- メニューから[エクスポート]を選びます
- [PDF 形式でダウンロード]を選びます(コメントも残したいときは[コメントを含む PDF としてダウンロード])
- 確認のダイアログで[ダウンロード]を押します
- ブラウザのダウンロード先にPDFができています
名前は[エクスポート]ですが、デスクトップ版のような[オプション]は出てきません。しおりを付けたい、PDF/Aで出したい、パスワードを掛けたい。そのどれかが必要なら、Web版では無理です。
その場合は、画面右上の[編集]から[デスクトップ アプリで開く]を選んで、Wordのアプリ側で作り直すことになります。ひと手間ですが、同じファイルがそのまま開くので、やり直しにはなりません。
[印刷]からPDFにしていい場面、やめたほうがいい場面
さんざん「印刷は中身が抜ける」と書いてきましたが、印刷ルートが悪いわけではありません。手順はいちばん短いですし、Wordに限らずどのアプリからでも同じやり方が使えます。
- [ファイル]から[印刷]に進みます
- [プリンター]の一覧から「Microsoft Print to PDF」を選びます
- [印刷]を押します
- 保存先とファイル名を指定して[保存]を押します
向いているのは、相手が紙に出すだけの1枚もの。請求書、送付状、会議で配るだけのレジュメ。このあたりは、しおりもタグも誰も使いません。
向いていないのは次の3つです。
- 見出しが何十個もある長い資料(しおりが作れない)
- 提出先が形式を指定している書類(PDF/Aにできない)
- 読み上げソフトでの閲覧が想定される文書(構造タグが付かない)
職場のプリンターの一覧に「Microsoft Print to PDF」が見当たらないときは、Windowsの機能が外されている可能性があります。[Windows の機能の有効化または無効化]を開いて、[Microsoft PDF 印刷]にチェックが入っているか見てみてください。
書体が変わる・改行位置がずれるのはフォントのせい
Wordのファイルは、使っているフォントの名前だけを覚えていて、フォントそのものは持っていません。だから自分の画面では完璧に見えていた書類が、相手の環境に同じフォントが無ければ、近い別の書体に置き換わります。
置き換わると、文字の幅も行の高さも変わります。すると改行の位置がずれ、ずれが積み重なって、最後の1行だけが次のページに取り残される。あの現象の正体はこれです。
先回りして防ぐなら、Word側でフォントを抱えさせてしまいます。
- [ファイル]タブから[オプション]を開きます
- 左の列で[保存]を選びます
- [ファイルにフォントを埋め込む]にチェックを入れます
- [OK]を押します
チェックを入れると、下に2つの項目が出てきます。[使用されている文字のみを埋め込む]はファイルが軽くなる代わりに、相手の編集が制限されます。渡した相手に書き直してもらう予定があるなら、ここは選ばないほうが無難でしょう。
ただし、すべてのフォントが埋め込めるわけではありません。埋め込みを許すかどうかはフォントの作り手が決めていて、Windowsなら[コントロール パネル]の[フォント]から、そのフォントの[フォントの埋め込み可能性]を確認できます。
それでも置き換わってしまうときの最後の手段が、PDF側の[オプション]にある[フォントを埋め込むことができない場合のビットマップ テキスト]です。文字を画像として焼き付けるので見た目は絶対に崩れませんが、引き換えにコピーも検索もできないPDFになります。読み手の不便と引き換えだと分かったうえで使う設定、という位置づけですね。
画像と図形だけが別のページに飛ぶとき
[文字列の折り返し]を[行内]に戻す
文章は無事なのに、画像だけが1ページ先に飛んでいる。この場合、犯人はフォントではなく画像の置き方です。
- ずれた画像をクリックして選びます
- 画像の右上に出る[レイアウト オプション]のアイコンを押します
- [行内]を選びます
- 文章の流れの中で、位置を整えます
[行内]の画像は、巨大な1文字として扱われます。前の文章が増えれば一緒に下がり、減れば一緒に上がるので、勝手に離れていくことがありません。
いっぽう[四角][外周][背面][前面]を選んだ画像は、ページの上に浮いた状態です。見栄えの自由は利きますが、支えているのは「どの段落にぶら下がっているか」という目に見えない錨(アンカー)だけ。PDF化で行送りがほんの少し変われば、錨ごと動きます。
どうしても動くなら、表の中に入れてしまう
とはいえ、レイアウトの都合で[行内]に戻せない画像もあります。写真の横に説明文を回したい、といった場合ですね。
そこで私がよく使うのが、罫線を消した表です。1行2列の表を作って、左のセルに画像、右のセルに文章を入れ、[罫線なし]にしてしまう。表のセルは絶対にページをまたいで分裂しないので、画像と説明文が離ればなれになる事故が起きません。
見た目は「画像の横に文章」のまま、中身は行内の画像。古い手ですが、いちばん裏切られませんでした。
字がぼやける・ファイルが重いときに見る1か所
残りの症状は、たいてい[最適化:]の選び間違いです。Windows版のWordで、PDFを保存する画面のファイル名のすぐ下にあります。
- [標準(オンライン発行および印刷)]…ファイルサイズより印刷品質を優先する
- [最小サイズ(オンライン発行)]…印刷品質よりファイルサイズを優先する
図やスクリーンショットの文字がにじんで読めない、写真の輪郭がもやっとしている。そういうPDFは、たいてい[最小サイズ]で書き出されています。[標準]に変えてもう一度出せば、それだけで直ります。
逆もあります。10MBを超えてメールに添付できない、という相談を受けて中を見たら、写真が20枚入った[標準]のPDFでした。画面で読むだけの資料なら、[最小サイズ]に切り替えるのがいちばん早い。この欄は「どちらが正解」ではなく、紙に出すのか画面で読むのかで決まる欄です。
まとめ
[名前を付けて保存]と[エクスポート]は入口が違うだけの同じ機能で、[印刷]だけが別物。
[印刷]のルートは手順が短くてつい使いたくなりますが、[オプション]が無いぶん、しおりも構造タグもPDF/Aも指定できません。紙の代わりに1枚出すなら十分、人に渡す資料なら前の2つ、という分け方で困らないはずです。そして前の2つを使うときは、[オプション]の[発行対象]が[文書]になっているかだけ見てください。ここが[変更とコメントの内容を含む文書]のままだと、社内のコメントが余白に並んだPDFが、そのまま社外へ出ていきます。
ずれの直し方も場所は決まっていました。書体が変わって改行位置が動くなら[ファイル]→[オプション]→[保存]の[ファイルにフォントを埋め込む]。画像だけが飛ぶなら[レイアウト オプション]を[行内]に。字がぼやけるなら[最適化:]を[標準(オンライン発行および印刷)]に。Mac版を使っているなら、[印刷用に最適]でハイパーリンクが壊れる既知の問題を頭に入れておくと、原因探しが一往復減ります。
Wordから出すPDFは、どのメニューを通ったかで中身が変わり、崩れたときに見る設定も「フォント」「画像の折り返し」「最適化」の3か所に収まります。
あのとき「目次が飛びません」と教えてくれた相手には、今でも感謝しています。言われなければ、その後も何年か、中身の薄いPDFを配り続けていたわけですから。Wordの画面は親切そうな顔をしていますが、どのボタンが何を落とすのかまでは教えてくれません。見た目が同じだからこそ、気づけないんですよね。