あおり運転は2020年に厳罰化。「斬新な追い越し」が許されない時代になった理由

スバル インプレッサ

道路を走っていると、ときどき「えっ、いま何した?」と目を疑うような車に出くわします。

前にぐいぐい詰めてくる、ウインカーも出さずに割り込んでくる、わざと急ブレーキを踏む。少し前のネットでは、こういう無茶な運転が「斬新な追い越し」なんて言葉で面白おかしく語られて、動画がバズることもありました。この記事のもとになった投稿も、まさにそのノリで書かれたものです。

でも、いまその目で見直すと、笑える話ではまったくありません。かつて「ネタ」として消費されていた危険な運転は、2020年の道路交通法改正で「妨害運転罪」という重い罪になり、一発で免許取り消しもありえる時代になりました。

WeberNoteを書いている私も、運転中にあおられてヒヤッとした経験が何度かあります。後ろからぴったり詰められて、何度もパッシングされたときは、心臓が縮む思いでした。当時は「危ないなあ」で済ませていましたが、いまなら落ち着いて通報もできるし、ドライブレコーダーで証拠も残せる。たった十数年で、社会の受け止め方も、私たちが取れる手段も、ずいぶん変わりました。

この記事では、あおり運転がどう厳罰化されたのか、どんな行為が対象になるのか、そして自分が加害者にも被害者にもならないために何ができるのかを、できるだけかみ砕いて整理します。専門的な条文をそのまま並べるのではなく、ふだん運転する人が「なるほど、気をつけよう」と思えるところまで落とし込むのが狙いです。昔の「斬新な追い越し」を懐かしむのではなく、今の常識にアップデートするための読み物として読んでもらえたらうれしいです。

「斬新な追い越し」が笑い話だった時代

2013年ごろのネットには、無謀な運転を撮った動画を「ヤバすぎる」「想像の斜め上」とネタにする空気がありました。スバルのインプレッサが強引な追い越しをする映像が話題になったのも、ちょうどそんな頃です。

当時は私もつい「うわ、何やってんだ」と笑ってしまっていたので、人のことは言えません。ただ、あの種の動画は撮った側・撮られた側のどちらかが、一歩間違えば大事故になっていたはずのものでした。面白がっていたあの運転は、実際には他人の命を巻き込みかねない危険行為そのものです。

ちなみに元になった投稿で紹介されていた動画は、いまはもうネット上で確認できませんでした。投稿サービスの終了や削除で、古いバズ動画はこうして静かに消えていきます。この記事でも、あえて代わりの危険運転動画を貼ることはしません。危ない映像をもう一度引っ張ってきて「ほら、ヤバいでしょ」とやるのは、結局あの頃と同じ態度だと思うからです。

映像が消えても、考え方は残せます。危険運転を笑いのネタにする感覚のほうこそ、そろそろ一緒に手放したいところです。実際、この十数年で世の中の空気は確実に変わりました。次の章で見るように、法律そのものが「あおり運転は犯罪だ」とはっきり言い切るようになったのです。

2020年、あおり運転は「妨害運転罪」になった

状況が大きく変わったきっかけのひとつが、2017年に東名高速で起きた、あおり運転に端を発する死亡事故でした。社会的な批判が一気に高まり、法整備が進みます。

そして2020年6月30日、改正道路交通法が施行され、いわゆるあおり運転が「妨害運転罪」として正式に罰則の対象になりました。それまでは「車間距離不保持」などの個別の違反でしか取り締まれなかったものが、ひとつの罪としてはっきり位置づけられたわけです。

罰則は危険の度合いで二段階に分かれています。他の車の通行を妨げる目的で危険な運転をした場合は、3年以下の拘禁刑(2025年6月までは「懲役」と呼ばれていた刑)または50万円以下の罰金。違反点数は25点で、免許は取り消し、欠格期間は2年です。

さらに、高速道路で相手の車を停止させるなど、著しく危険な状況をつくり出した場合は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。違反点数は35点、免許取り消しで欠格期間は3年に跳ね上がります。前歴や累積点数があれば、欠格期間はさらに延びます。

たった一度のカッとした行動で、免許も社会的信用も失いかねない。それが今のルールです。

出典:千葉県警察「妨害運転罪の創設について(令和2年6月30日施行)」

対象になる「10類型」の行為

「自分は人をあおったりしない」と思っていても、妨害運転罪の対象行為は意外と幅広いので注意が必要です。警察庁は、妨害目的で行われると妨害運転罪に問われうる違反を10種類示しています。

  • 通行区分違反(対向車線にはみ出す、逆走するなど)
  • 急ブレーキ禁止違反(不要な急ブレーキ)
  • 車間距離不保持(前の車にぴったり詰める)
  • 進路変更禁止違反(無理な割り込み、幅寄せ)
  • 追越し違反
  • 減光等義務違反(ハイビームのまま走り続ける)
  • 警音器使用制限違反(不要なクラクション)
  • 安全運転義務違反
  • 最低速度違反(高速道路でわざと遅く走る)
  • 高速自動車国道等駐停車違反(高速での停車)

こうして並べてみると、「ちょっとイラッとして詰めてしまう」「遅い車にパッシングする」といった、つい誰でもやりがちな行為が含まれているのがわかります。あおり運転は特別な人がする特別な行為ではなく、ふだんの運転の延長線上で起きてしまうものだと考えておくのが安全です。

もちろん、渋滞でたまたま車間が詰まっただけで即アウトになるわけではなく、相手の通行を妨げる「目的」があったかどうかが問われます。とはいえ、その線引きを自分の感覚で甘く見るのは危険です。本人は「ちょっと急かしただけ」のつもりでも、相手やドラレコの映像から見れば立派なあおり運転、ということは十分にありえます。

遅い車にイライラしたら、車間を空けて、無理せず追い越せる場所まで待つ。割り込まれてカッとしても、深呼吸ひとつ。腹が立っても、その感情を運転に持ち込まないのが、結局は自分を守る一番の近道です。

出典:大阪府警察「妨害運転罪の創設について」

ドライブレコーダーという「沈黙の証人」

厳罰化と並んで、この数年で運転環境を大きく変えたのがドライブレコーダーの普及です。

各種調査では、いまや乗用車の設置率は5割から6割を超える水準まで来ています。パイオニアが2024年に公表した調査では設置率は63.8%にのぼり、設置していない人も含めると「付けたい」という人が約9割に達したそうです。設置理由のトップに挙がるのが、まさにあおり運転対策でした。

もしあおられても、映像という動かぬ証拠があれば、後から「言った・言わない」でもめずに事実を示せます。私自身もドラレコを付けてから、変な車に絡まれても「録れているから大丈夫」と思えるようになり、運転中の心の余裕がずいぶん変わりました。

選ぶときは、解像度(できればフルHD以上)、夜間やトンネルでの見やすさ、そして後方も撮れる前後2カメラタイプかどうかを基準にすると失敗が少ないです。あおりは後ろから来ることが多いので、後方カメラは特に効きます。ナンバーがしっかり読み取れる画質かどうかも、いざというときに効いてきます。

ただし、付けただけで満足してしまい、いざ確認したらSDカードが壊れていて録れていなかった、という話も意外とよく聞きます。たまに再生してちゃんと記録できているか確かめておくと安心です。せっかくの「沈黙の証人」も、肝心なときに口を開けなければ意味がありませんから。

出典:JAF Mate Online「ドライブレコーダーの設置率は約64%」

あおられたとき、どうすればいい?

万が一あおられても、こちらが冷静でいることが何より大事です。相手と張り合うと、被害者が加害者に変わってしまうこともあります。

基本は、無理に避けようと急がず、安全な場所までいったん進むこと。サービスエリアやコンビニ、人や車の多い場所に車を停め、ドアをロックして窓を開けない。そのまま降りてこられても応じず、110番通報するのが鉄則です。高速道路の本線上や路肩に停まるのは、追突の危険があるので避けてください。

そして、感情に任せて急ブレーキで仕返しをしたり、こちらも幅寄せで対抗したりするのは絶対にやめましょう。その瞬間、自分も妨害運転罪の対象になります。あおり運転への一番の対抗策は、やり返さないことと、記録を残すことです。

関連記事:【動画】ヤバすぎる…ドライブレコーダーで撮影された女性の道路横断が超危険だった

まとめ:笑い話で済ませず、今の常識へ

かつて「斬新な追い越し」とネタにされた運転は、いまでは免許も信用も失いかねない、れっきとした犯罪行為です。

2020年の道路交通法改正で妨害運転罪が創設され、対象となる10類型もはっきり示されました。著しく危険な場合は5年以下の拘禁刑、免許も取り消し。決して軽い話ではありません。車間を詰める、無理に割り込む、わざと急ブレーキを踏む。どれも、ほんの少しの苛立ちから始まってしまうものばかりです。だからこそ、「自分は大丈夫」「あおりをするのは一部の乱暴な人だけ」と思っている人ほど、一度立ち止まって考えてほしいと思います。疲れているとき、急いでいるとき、運転の荒さは誰の中にもふっと顔を出します。

同時に、ドライブレコーダーのように自分を守る手段も、ぐっと身近になりました。あおられても張り合わず、安全な場所に停めて通報し、記録を残して冷静に対処する。やられたらやり返す、ではなく、淡々と証拠を残す。これが今のドライバーのスタンダードです。怒りをぶつけるより、そのほうがずっと賢い対応だと私は思います。

昔のバズ動画を懐かしむより、運転に対する自分の感覚を一段アップデートする。その小さな積み重ねが、自分と、まわりの誰かの命を守ります。今日も道路では、たくさんの人がそれぞれの事情を抱えてハンドルを握っています。次に運転席に座るとき、少しだけこの記事を思い出して、いつもより一呼吸おいてもらえたら、書いた甲斐があります。