パソコンの電源ボタンに描かれた、丸と縦棒を組み合わせたあのマーク。何を表しているのか、考えたことはありますか?
実はあのマーク、デザイナーの思いつきでも単なる飾りでもありません。正体は、コンピューターの世界を支える「0」と「1」。しかも国際規格できちんと意味が定められた、由緒正しい記号です。
身の回りを見渡すと、こうした「毎日見ているのに由来を知らないマーク」は驚くほどたくさんあります。USBケーブルに刻まれた三つ又のマーク、Macキーボードの「⌘」、スマホサイトでおなじみの三本線メニュー、そしてメールアドレスに必ず入っている「@」。あまりに当たり前の存在なので、誕生の物語を気にする人はほとんどいません。
ところが由来をたどってみると、海の神の槍、北欧の道路標識、50年以上前の研究者のひらめきと、想像もしなかった場所に次々と行き着きます。私もWeb制作の仕事で毎日これらのマークと顔を合わせていますが、由来を調べながら「そうだったのか」と何度もつぶやきました。
この記事では、電源マーク・USBロゴ・⌘キー・ハンバーガーメニュー・@マークという身近な5つの記号の意外な由来を、出典付きでまとめました。
知らなくても困らない知識ですが、知っていると景色が変わるタイプの雑学です。読み終わるころには、毎日触っている電源ボタンやUSBケーブルが、ほんの少し違って見えるはず。どれも明日の雑談でそのまま使える粒ぞろいです!
電源マークの正体は「0」と「1」の合体だった

まずは大本命、電源マークから。縦棒の「|」は数字の「1」、丸の「○」は数字の「0」を表しています。
コンピューターはすべての情報を0と1の2進数で処理します。スイッチの世界でもこれになぞらえて、「1=電流が流れる(オン)」「0=電流が流れない(オフ)」という意味が割り当てられました。
かつてのスイッチには「ON」「OFF」と英語で書かれていましたが、電化製品が世界中で売られるようになると、言語の壁が問題になります。そこで英語の代わりに、どの国の人でも読める数字の記号が採用されました。丸と縦棒の電源マークは、言葉が通じなくても伝わる「世界共通語」として生まれた記号なんです。
この記号はIEC(国際電気標準会議)の「IEC 60417」という規格で定められていて、日本のJIS規格にも取り入れられています。
そしてもうひとつ意外な事実を。丸の一部が欠けて、そこに縦棒が入り込んだデザインのマーク(多くのパソコンの電源ボタンに描かれているもの)は、規格上「スタンバイ(待機)」を表す記号とされています。完全に電源を切るのではなく、いつでも起動できる状態にする。スリープが当たり前になった今のパソコンやテレビの動きに、ぴったりの意味ですね。
ちなみに海外のホテルで見かけるシーソー型のスイッチも、「|」側を押せばオン、「○」側を押せばオフ。これを知っていると、初めての国の照明スイッチでも迷いません。
参考:Wikipedia「Power symbol」(英語)
USBのマークは海の神の「三叉の槍」

USBケーブルやポートのそばに刻まれた、三つ又に枝分かれした矢印のようなマーク。あれは「トライデントロゴ」と呼ばれています。
トライデントとは三つ又の槍のこと。ローマ神話の海の神ネプチューン(ギリシャ神話ではポセイドン)が持つ武器がモチーフになったとされています。ケーブルの脇に刻む記号としては、ずいぶん壮大な出典です。
注目したいのは、枝分かれした先端の形。よく見ると、丸・三角(矢印)・四角と、3つともバラバラの形をしています。これは「種類の違うさまざまな機器が、USBというひとつの規格でつながる」ことを表現したデザインと言われています。マウスもキーボードもプリンターも、差せば全部つながる。USBが登場したときの衝撃を、槍の先端に込めたわけです。
USBの規格やロゴは「USB-IF」という業界団体が管理していて、転送速度ごとのロゴの使い方まで細かくガイドラインで決められています。何気ないマークひとつにも、ちゃんと管理者がいるんですね。
Macの「⌘」はスウェーデンの道路標識だった

Macユーザーにはおなじみ、コピーや貼り付けのたびに押している「⌘(コマンドキー)」。この四つ葉のようなマークの出身地は、なんと北欧の道路です。
初代Macintosh(1984年発売)の開発中のこと。当初、メニューのショートカット表示にはAppleのロゴマークが使われていました。ところがそれを見たスティーブ・ジョブズが「ロゴの使いすぎだ!」と待ったをかけます。
代わりの記号を探す役目を担ったのが、Macのアイコンを数多く手がけたデザイナーのスーザン・ケア。彼女が国際記号の辞典をめくって見つけたのが、この四つ葉のマークでした。
このマークは、スウェーデンをはじめ北欧の国々で「名所・史跡」を示す標識として使われていた記号です。日本で言えば、地図記号の温泉マークがキーボードに載っているようなものでしょうか。
開発チームの間では「スウェーデンのキャンプ場」という愛称で呼ばれていたそうですが、実際はキャンプ場ではなく名所を示す標識だった、という後日談まで残っています。今もスウェーデンを旅すれば、道路脇でこの「⌘」に出会えます。毎日押しているキーが実は海外の交通標識だったなんて、なかなか気づけません。
参考:Mac開発メンバーによる開発秘話サイト「folklore.org」
ハンバーガーメニューは40年以上前の発明だった
スマホサイトの右上によくある、三本線のメニューボタン。三本線がバンズと具に見えることから「ハンバーガーメニュー」と呼ばれています。
スマホ時代に生まれた新しいアイコンと思われがちですが、実は違います。誕生は1981年。ゼロックス社のワークステーション「Xerox Star」の画面のために、デザイナーのノーム・コックス氏が考案しました。
当時アイコンに使えたのは、わずか16×16ピクセルという極小サイズ。その制約の中でコックス氏は、「メニュー項目がリストで並んでいる様子」をそのまま三本線に図案化しました。ハンバーガーメニューの三本線は、押すと現れるメニューリストの「見た目の予告」だったんです。
その後このアイコンは30年近く忘れられ、スマホの普及とともに再発見されました。小さな画面にメニューを収めたいというスマホの事情が、奇しくも40年前の極小画素の事情とそっくりだったわけです。
Webサイトを作る仕事をしていると、このアイコンを置かない日はないほどの定番中の定番。てっきりスマホ以降の発明だと思い込んでいたので、由来を知ったときは、40年前のデザインがそのまま最前線に戻ってきた事実に驚きました。
メールの「@」は「どこにいるか」を示す記号
メールアドレスに必ず入っている「@(アットマーク)」。これを世界で初めてメールに使ったのは、アメリカの技術者レイ・トムリンソン氏です。
1971年、トムリンソン氏はインターネットの前身「ARPANET」で、別のコンピューター宛てにメッセージを送る世界初の電子メールを実現しました。そのとき「ユーザー名」と「相手のコンピューター名」を区切る記号として選ばれたのが@でした。
選ばれた理由は2つ。人の名前に使われない文字だったこと、そして英語の「at(〜にいる)」を意味する記号だったことです。「ユーザー名@コンピューター名」は、「この人はこのコンピューターにいます」という住所表記そのものでした。50年以上たった今も、世界中のメールアドレスはこの形のままです。
ちなみに@自体はメール以前から存在していて、もともとは「りんご@100円」のように単価を表す商業記号でした。伝票の脇役だった記号が、ある日突然インターネットの主役に大抜擢された。そう考えると、なかなかドラマチックな出世物語です。
まとめ
毎日目にしている記号の、意外な由来を5つ紹介してきました。
電源マークは2進数の「0」と「1」。USBのロゴは海の神の三叉の槍。Macの「⌘」は北欧で名所を示す道路標識。ハンバーガーメニューは1981年生まれのベテラン。そしてメールの「@」は、単価を表す商業記号からの転身でした。こうして並べてみると、どれも一筋縄ではいかない経歴の持ち主です。
5つのマークに共通するのは、「言葉が通じなくても、ひと目で伝わるように」という工夫の積み重ねから生まれたデザインだということです。国も言語も違う人たちが同じ機器を使う以上、記号は世界共通語でなければならない。身近なマークたちは、その難題を解き続けてきた小さな発明品と言えます。
この手の雑学のいいところは、披露するチャンスが多いことです。中でも私のおすすめは電源マーク。パソコンにスマホにテレビにエアコンにと、目に入る頻度が桁違いなので、「あのマーク、実は0と1なんだよ」と話せる場面がいくらでもあります。相手のすぐ手元に実物があるので、その場で確かめてもらえるのも強い。雑談のつかみとしては最高の部類です。
そして一度由来を知ると、街で見かける記号すべてに「これも何か物語があるのでは?」と目が向くようになります。エレベーターのボタン、洗濯表示、地図記号。世界は解読待ちの記号であふれています。次に電源ボタンを押すときは、ぜひ「0」と「1」を思い出してみてください!