スマホにワイヤレスイヤホンをつなぐとき、車でハンズフリー通話をするとき。私たちが毎日のように使っている「Bluetooth」。
でも、あの名前が何を意味しているのか、じっくり考えたことはありますか。英語をそのまま訳すと「青い歯」。データを飛ばす無線技術なのに、どういうわけか歯の名前なんです。
さらに気になるのが、設定画面にちょこんといる、あのギザギザしたロゴ。よく見ると、何かの文字を組み合わせたようにも見えてきます。ワイヤレスイヤホンやスピーカー、キーボードにマウス、いまや数えきれないほどの機器がこのマークひとつでつながる時代です。それだけ身近なのに、名前もロゴも由来はほとんど知られていません。
私はWeb制作を長年やってきて、通信まわりの言葉にはそれなりに慣れているつもりでした。それでもBluetoothの名前の由来を初めて知ったときは、思わず「へえ、そういうことか」と声が出たのを覚えています。身近すぎて、逆に調べようと思わない言葉の代表格かもしれません。
実はBluetoothという名前も、あのロゴも、10世紀に北欧を治めた「青歯王」と呼ばれる王様に由来しているのです。
この記事では、Bluetoothの名前がどこから来たのか、なぜ「青い歯」なのか、そしてあのロゴに隠された意味までをやさしく解説します。読み終わるころには、いつものBluetooth設定画面がちょっと違って見えるはずです。飲み会や雑談でそのまま使える、鉄板のネタとしてもどうぞ。
「Bluetooth」は実在した王様の名前だった
まず結論から。Bluetoothは、10世紀のデンマークとノルウェーを治めた王様、ハーラル・ブロタン(Harald Bluetooth)のあだ名からとられています。
この王様、ただの飾りではありません。バラバラだった北欧の部族をまとめ上げ、デンマークとノルウェーをひとつに統一した、いわば「つなぐ」名人でした。
ここが名づけのポイントです。Bluetoothという技術も、当時バラバラだったパソコンや携帯電話などの機器を、無線でひとつにつなぐことを目指していました。「機器同士を統一してつなぐ技術」を、「国をまとめて統一した王様」の名前になぞらえたというわけです。
名づけたのは、Intelのジム・カーダック氏という技術者。歴史好きだった彼が、王様の物語と自分たちの技術を重ね合わせたと語っています。無味乾燥な型番ではなく、こんなロマンのある名前が世界中に広まったと思うと、ちょっと粋ですよね。
参考: Bluetooth公式サイト
なぜ「青い歯」?青歯王と呼ばれた理由
では、なぜハーラル王は「青歯(Bluetooth)」と呼ばれたのでしょう。統一の名人なら、もっとかっこいいあだ名でもよさそうなものです。
これには古くからの言い伝えがあります。ハーラル王には、目立つ悪い歯が一本あり、それが青黒く見えたから「青い歯の王」と呼ばれた、という説です。実際、12世紀後半の年代記には「青みがかった、あるいは黒い歯」といった記述が残っています。
もっとも、これはあくまで伝承の一つで、はっきりした真相はわかっていません。古い北欧の言葉では「青(blár)」が、青というより黒っぽい暗い色を指すこともあったようで、そのあたりの色の感覚も関係しているのかもしれません。
いずれにせよ、王様のあだ名が千年の時を超えて、あなたのスマホの設定画面に生きている。そう考えると不思議な縁を感じます。ちなみにハーラル王の名前が初めて記録に残るのは、亡くなってからずいぶん後の12世紀ごろとされています。
参考: ハーラル・ブルートゥースの解説(Wikipedia)
あのロゴ、実はルーン文字を合体させたもの
ここが個人的に一番おもしろいと思っているところです。Bluetoothのロゴ、あの青地に白抜きのギザギザマーク。あれ、ただのデザインではありません。
あのマークは、北欧で使われていた「ルーン文字」という古代文字を組み合わせたものなんです。使われているのは、ハーラル王のイニシャルにあたる2文字。
- 「H」を表すルーン文字「ᚼ」(ハガル)
- 「B」を表すルーン文字「ᛒ」(ビャルカン)
この「H」と「B」を重ね合わせてできたのが、あのロゴです。名前のHarald Blåtand(ハーラル・ブロタン)の頭文字を、そのまま古代文字でデザインしているわけですね。
王様の名前を由来にしただけでなく、ロゴまで王様のイニシャルで作り込んでいる——ここまで徹底しているとは、正直しびれました。
次にスマホの設定画面を開いたら、ぜひあのマークをじっくり見てみてください。ギザギザの中に「H」と「B」が潜んでいるのが、なんとなく見えてくるはずです。一度気づくと、もう普通のマークには戻れません。
本当は「別の名前」になるはずだった
ここで、もう一つ小ネタを。実はBluetoothという名前、最初は正式名称になる予定ではありませんでした。
もともとBluetoothは、開発中に仮でつけていた「コードネーム(あだ名)」だったんです。製品として世に出すときには、別のかっこいい名前に差し替える計画でした。
候補に挙がっていたのが「RadioWire(レディオワイヤー)」と「PAN(Personal Area Networking)」の2つ。ところが、ここで思わぬ足止めを食らいます。
- 「PAN」は、当時すでにインターネット上で同じ言葉が大量に使われていて、ほかと区別しにくかった
- 「RadioWire」は、商標として使えるかの調査が、発売までに間に合わなかった
結果、消去法で残ったのが、仮の名前だったはずの「Bluetooth」。そうこうしているうちに、この呼び名が業界にすっかり浸透してしまい、差し替えるどころか、そのまま正式名称になってしまったというわけです。
もし段取りが違っていたら、私たちは今ごろ「レディオワイヤーでイヤホンつないで」なんて言っていたかもしれません。仮の名前がそのまま定着するあたり、なんだか人間くさくて好きなエピソードです。
参考: Bluetooth公式サイト
まとめ
毎日なにげなく使っているBluetoothの、名前とロゴの由来を紹介してきました。
おさらいすると、名前は北欧を統一した王様「青歯王ハーラル」から。機器同士をつなぐ技術を、国をまとめた王様になぞらえた洒落た命名でした。あのギザギザのロゴも、王様のイニシャル「H」と「B」をルーン文字で組み合わせたもの。しかも当初は仮の名前で、別の名前になるはずが、そのまま定着してしまった——という裏話まで揃っています。
ただの技術用語だと思っていたBluetoothは、千年前の王様の物語をまるごと背負った、ロマンあふれる名前だったのです。
知っていても通信が速くなるわけではありません。それでも、こういう「言葉の裏側」を知ると、いつもの道具に少し愛着がわいてくるものです。私はこの手の由来ネタを集めるのが趣味みたいなもので、身のまわりのカタカナ語を調べるたびに小さな発見があります。
今度スマホやパソコンでBluetoothをオンにするとき、あの青いマークをちらっと眺めてみてください。そこに北欧の王様が隠れていると思うと、無機質な設定画面も、ほんの少し楽しく見えてくるかもしれません。