充電しっぱなしで寝る。ケーブルを挿したままカバンに放り込む。真夏の車に置いて買い物へ行く。どれも珍しくない使い方ですが、リチウムイオン電池にとっては条件がそろう瞬間です。
東京消防庁のまとめでは、住宅で起きたリチウムイオン電池関連の火災は令和6年中に115件。過去最多で、その約6割が充電中に起きています。
火は電池の中から出ます。内部で正極と負極がつながってしまうと急激に熱を持ち、揮発した有機溶剤に着火する——というのが出火のしくみです。外から見て何も起きていなくても、落とした衝撃が数日後に効いてくることがあります。
NITEの集計では、事故は春から気温の上昇とともに増えて8月がピーク。2021年から2025年までの5年間で2,140件にのぼります。9月の残暑もまだその延長線上です。
しかもモバイルバッテリーだけの話ではありません。住宅火災の製品別で2位に来ているのは電気カミソリで、コードレス掃除機やワイヤレスイヤホンも並んでいます。充電台に挿しっぱなしにしているものが、家の中に何台あるでしょうか。
この記事では、発火の引き金になる使い方を実際の火災データから整理し、そのうえで「本体が熱い」と感じたときに何をして何をしてはいけないのかを順番に書きます。
すでに膨らんでしまったものの捨て場所は、別記事にまとめてあります。ここで扱うのは、そうなる前の話と、いま手の中で熱を持っているものをどう扱うかです。
火災の6割は充電中。原因の1位は「正規品以外で充電」
まず、どこで火が出ているのかを数字で押さえます。東京消防庁が公表している令和6年の住宅火災115件の内訳です。
- 約6割が充電中に発生
- 製品の欠陥を除くと、最も多い原因は「充電方法誤り(正規品以外で充電)」
- 充電していないときは「分解・廃棄・バッテリー交換」で多く起きている
- 「外部衝撃(落下)」は充電の有無にかかわらず発生している
つまり危ないのは製品そのものより、充電のさせ方と扱い方だということです。安い充電器を使い回す、落としたものをそのまま使い続ける。この2つが事故の入口になっています。
製品別の内訳も見ておく価値があります。モバイルバッテリー35件、電気カミソリ13件、携帯電話機10件、コードレス掃除機9件、ポータブル電源8件、電動アシスト付き自転車6件、タブレット5件、ワイヤレスイヤホン5件。
電気カミソリが2位というのは意外ではないでしょうか。充電台に挿しっぱなしにする製品ほど上位に来ている、と読むこともできます。
買うときに見る2つ。PSEマークと、純正かどうか
使い方の前に、そもそも何を買うかで危険度が変わります。
丸いPSEマークが付いているか
モバイルバッテリーは2018年2月1日に電気用品安全法の規制対象になりました。1年の経過措置を経て、2019年2月以降はPSEマークの無いモバイルバッテリーを販売できません。
マークの形は丸。特定電気用品以外の電気用品に付くものです。これが無い品がフリマアプリや並行輸入で流れてくることがあり、そういう品は技術基準の適合確認も全数検査も通っていない可能性があります。
非純正の「安いだけ」を避ける
NITEの調査では、非純正バッテリーによる事故は10年間で235件。そのうち227件が火災に発展し、建物が全焼した例まであります。
理由は単純で、電池の安全は本体ではなく保護回路が支えているからです。過充電を止める、温度が上がったら切る、そういう仕組みの品質が値段に出ます。バッテリーには可燃性の電解液が入っているので、保護が甘いと一気に燃えます。
純正が高いと感じるときは、せめて連絡先のはっきりしたメーカーの品を選ぶ。リコール情報が出ていないかを型番で確認する。この2つだけでもリスクはかなり減ります。
充電する場所を変えるだけで、被害の大きさが変わる
6割が充電中に起きているのなら、手を打つべきはまず充電の環境です。発火そのものをゼロにはできなくても、燃え移るものが周りに無ければ、火災にはなりにくい。
避けたい置き場所は具体的です。
- 布団やベッドの上、ソファのクッションの間
- 紙の書類やティッシュ箱の隣
- こたつの中、暖房器具の前
- 直射日光の当たる窓際、真夏の車内やダッシュボード
- カバンやポケットの中(圧迫されるうえ熱がこもる)
代わりに、机の上やタイル・金属トレーの上など、燃えるものが無い平らな場所で充電します。地味ですが、これが火災件数のいちばん大きい層に効く対策です。
就寝中と外出中の充電も見直したいところです。異常が起きても気づく人がいない時間帯だからで、NITEも「充電・使用時は時々様子を見て、異常を感じたらすぐに充電・使用を中止する」と書いています。満充電になったら抜く、という当たり前の運用に戻すのがいちばん確実です。
充電器も製品が指定するものを使います。出力の合わないアダプタや、断線しかけたケーブルを使い続けるのは、原因の1位に自分から近づく行為です。
落とした・踏んだあとが、いちばん見落とされる
外部衝撃による火災は、充電の有無に関係なく起きています。しかも厄介なことに、ぶつけた直後は何ともないように見えます。
東京消防庁は出火のしくみをこう説明しています。衝撃等により内部の正極板と負極板が短絡し、急激に加熱した後、揮発した有機溶剤に着火して出火することがある、と。内部で起きた微細な傷が、時間をかけて短絡に育つわけです。
だから落とした電池は「動いているから大丈夫」で終わらせないほうがいい。数日は充電中の様子を気にかけて、熱の持ち方が以前と違えば使うのをやめます。
日常で衝撃が加わりやすい場面も押さえておきます。自転車のかごに入れたまま段差を越える。椅子の上に置いたまま座る。カバンの底で硬いものと一緒に揺られる。どれも「落とした」という自覚が残らないのが共通点です。
分解も同じ理由で危険です。非充電中の火災で最も多いのが「分解・廃棄・バッテリー交換」だという事実は、中を開ける行為そのものが引き金になることを示しています。
熱いと感じたときの手順
ここからが本題です。触って熱いと感じたとき、順番を間違えなければ被害は小さくできます。
まず、これは異常かどうか
急速充電中やゲーム中に本体がほんのり温かくなるのは、正常な範囲です。判断が変わるのは次のような状態になったときです。
- 持っていられないほど熱い、触れないほど熱い
- 充電をやめても熱が引かない
- 本体が膨らんでいる、平らな面が反っている
- 焦げくさい、甘いような薬品のにおいがする
- 音がする、煙が出ている
やること(この順番で)
- 充電をやめる。ケーブルを抜くときは、まずコンセント側から抜く
- 燃えやすいものから離す。布団や紙の上から、タイル・玄関の土間・金属トレーなど燃えない場所へ移す
- 触れないほど熱ければ、無理に持たない。周りの燃えるものをどけるほうを優先する
- 窓を開けて換気し、人とペットを近づけない
- 熱が引いても使わない。メーカーか販売店に連絡して指示を受ける
東京消防庁も、発熱などの異常がある場合は使用をやめて製造事業者や販売店に相談するよう案内しています。「一度冷えたから大丈夫」は通用しません。内部で短絡が起きていれば、次に充電したときに再発します。
やってはいけないこと
- 冷蔵庫や冷凍庫に入れる(結露で水濡れし、別の事故の原因になる)
- 保冷剤や氷を直接当てる
- 水に沈めて冷やす(発火していない段階では逆効果)
- 膨らみを押し戻す、穴を開けてガスを抜く
- そのまま充電を続けて様子を見る
- カバンやポケットに戻す
発火してしまったら
NITEの案内は明確です。万が一発火した場合は大量の水で消火し、可能な限り水没させた状態にして、119番通報する。
リチウムイオン電池の火は、表面の炎を消しても内部の発熱が続くと再着火します。だから「冷やし切る」ことが要る、という理屈です。家庭用の消火器で炎が消えたように見えても、通報と冷却は省かないでください。
参考:NITE リチウムイオン電池搭載製品の火災事故を防ぐ3つのポイント
スマホが熱いだけなら、まだ慌てなくていい
夏場にスマホが熱くなると身構えてしまいますが、原因の多くは高負荷のアプリ・通信・直射日光です。動作が重くなる、充電が止まる、警告が出る——このあたりは端末が自分を守っている反応で、火災とは段階が違います。
線引きは前の節のとおりです。使用をやめて温度が下がるなら発熱、下がらない・膨らむ・においがするなら異常。
熱の下げ方そのものは別記事にまとめてあります。
異常が出た製品は、使わずに手放す
異常が出たバッテリーや端末は、直して使うより手放すほうが安全です。ただし出す先が普通のごみではないので、そこだけ間違えないようにします。
モバイルバッテリーの場合
膨らんでいなければ家電量販店などの回収ボックスに出せますが、膨張・破損したものは回収ボックスの対象外です。自治体の窓口に相談するのが最短で、地域によっては職員が取りに来る訪問回収もあります。
出すまでのあいだは、端子にテープを貼って絶縁し、金属の缶やふた付きの不燃容器に入れて、燃えやすいものから離して置きます。処分先の探し方はリードで挙げた記事のとおりです。
スマホ・タブレットの場合
電池が本体から外せないので、回収の道筋がまた別になります。携帯ショップが他社で買った端末でも無料で引き取っていて、データ消去は自分で済ませておくのが前提です。
まとめ
数字がはっきりしているぶん、打ち手も具体的です。要点を並べます。
- 住宅火災115件のうち約6割が充電中。原因の1位は正規品以外での充電
- 買うときはPSEマークと、連絡先のはっきりしたメーカーかどうかを見る
- 非純正バッテリーの事故は10年で235件、うち227件が火災
- 布団・紙・こたつ・車内を避け、燃えないものの上で充電する
- 就寝中と外出中の充電はやめる。異常に気づく人がいない時間帯だから
- 落とした電池は数日は様子を見る。分解はしない
- 熱いと感じたら、充電をやめて燃えやすいものから離す。冷蔵庫・氷・水は使わない
- 発火したら大量の水で消火し、水没させた状態で119番
「火が出るかどうか」と「火事になるかどうか」は別の話です。電池の内部で起きる短絡は、使う側からは見えないし止められません。それでも、周りに燃えるものを置かないことは今日からできます。
充電場所を布団の上から机の上に変える。それだけで、同じ事故が起きても結果が変わります。
季節も味方にしたいところです。事故は8月がピークですが、9月の残暑と、これから使う機会が増える電気毛布や加熱式の暖房器具にも同じ電池が入っています。夏が終わったから安心、という話ではありません。
手元のモバイルバッテリーを1つ手に取って、平らな机に置いてみてください。ガタつくなら、それはもう使うのをやめる合図です。