会議で発言の順番が回ってくる直前、静かな映画館、電話をかけている最中。しゃっくりは、止まってほしい場面を選んだように出てきます。
止め方も昔からたくさん伝わっています。息を止める、コップの水を一気に飲む、誰かに後ろから驚かしてもらう。子どものころ「しゃっくりが100回続くと死ぬ」と言われて、本気で数えた覚えのある人もいるのではないでしょうか。
医師向けの医学書を一般向けにまとめたMSDマニュアル家庭版は、こうした民間療法の多くを「効果がないか、わずかに効果がみられるに過ぎません」と書いています。そのうえで、一般的に安全で簡単にできるから試しても害はない、という扱いです。
この記事では、しゃっくりが起きる仕組みと、昔から言われてきた止め方のうち医学の本に載っているもの・載っていないもの、病院に行く目安をまとめます。
驚かしてもらう方法は、もう使わなくていいと私は思っています。根拠が見当たらないうえに、相手の協力が要る。自分ひとりで、その場でできる方法がほかにいくつもあります。
しゃっくりは横隔膜のけいれんと、声門の「ふた」
MSDマニュアル家庭版の説明では、しゃっくりは「横隔膜の不随意のけいれんの後に声門が音を立てて素早く閉じることが繰り返し起こるもの」です。
横隔膜は、胸とおなかを仕切っている筋肉で、息を吸うたびに下がって肺をふくらませます。これが勝手にビクッと縮むと、空気が急に吸い込まれる。その直後に、のどの奥の声門(声帯のあいだのすき間)がパタンと閉じて空気を止める。「ヒック」という音は、この閉じる音です。
なぜ横隔膜がけいれんするのかは、はっきりとは分かっていません。呼吸の筋肉をコントロールしている神経や、脳の一部が刺激されることが関わっている、と考えられています。
短いしゃっくりのきっかけとして挙げられているのは、胃がふくらむこと、お酒、熱いものや刺激のある飲食物です。笑う、話す、食べる、飲むが一度に重なる宴会の席で出やすいのは、このためだとされています。
もう1つ、血液中の二酸化炭素が減ると起こりやすくなることも分かっています。速く深い呼吸(過換気)のあとが典型です。この性質が、あとで出てくる止め方の半分の根っこになっています。
「100回続くと死ぬ」は迷信
いちばん怖い言い伝えから片付けます。しゃっくりが100回続いても、それで死ぬことはありません。
ギネス世界記録には「最も長く続いたしゃっくり」の記録があります。記録を持つのはアメリカの農家、チャールズ・オズボーンさん(1894〜1991年)。1922年、解体する前の豚の重さを量ろうとしていたときにしゃっくりが始まり、止まったのは1990年2月のある朝でした。
68年間です。1分間に20〜40回、生涯でおよそ4億3000万回しゃっくりをしたと推定されています。その間に2度結婚し、8人の子どもの父親になりました。
100回どころの話ではありません。回数そのものが命を縮めるわけではないことは、この記録ひとつで言えます。気にするべきなのは回数ではなく、何日続いているかのほうです。
参考:Guinness World Records「Longest attack of hiccups」
「驚かす」は効くのか
昔からある方法の代表が、後ろから「わっ」と驚かすやり方です。
MSDマニュアル家庭版には、自分でできる止め方がいくつも挙がっていますが、驚かす方法はその中に入っていません。しかも、挙がっている方法についてさえ「ほとんどのものは効果がないか、わずかに効果がみられるに過ぎません」という評価です。医学の本に載っている方法でもこうなので、載っていない驚かす方法に期待する理由は見当たりません。
驚かされた直後に止まった経験がある人は多いと思いますが、しゃっくりはもともと数分で自然に止まることが多いものです。止まるタイミングがたまたま驚いた直後だった、というだけでも同じ体験になります。効いたように見える理由は、私はこれだと考えています。
それに、驚かす側は加減が分かりません。熱いお茶を持っているとき、階段の途中、車の運転中。場面によっては、しゃっくりより驚いたことのほうが危ない…。
医学の本に載っている止め方
MSDマニュアル家庭版が挙げている方法は、仕組みで2つに分かれます。どれも道具がほとんど要りません。
血液中の二酸化炭素を増やす方法
- 息を止める
- 紙袋を口にあてて深呼吸する(ビニール袋は不可)
しゃっくりは二酸化炭素が減ると起こりやすくなるので、その逆をやる方法です。紙袋は、自分が吐いた息をもう一度吸うことで二酸化炭素を増やします。ビニール袋は不可と、MSDマニュアルははっきり書いています。
迷走神経を刺激する方法
- 水を素早く飲む
- 乾燥したパン、グラニュー糖、砕いた氷を飲み込む
- 舌をやさしく引っぱる
迷走神経は、脳から胃までつながっている神経です。のどを通るものや舌への刺激で、この神経に働きかけようというのがこちらの方法です。
昔から言われる「コップの反対側から水を飲む」も、水を飲む方法の変形と考えれば、この仲間に入ります。私がまず試すなら、道具の要らない息止めか、手元の水を一気に飲むかのどちらかです。砂糖を飲み込む方法は、キッチンにいるときなら手軽です。
一覧にはほかに、指をのどの奥に入れて空えずきを促す、眼球をやさしくこする、といった方法も載っています。ただ、どちらも気軽に人に勧める方法ではないと私は思うので、ここでは挙げるだけにします。
2021年に出てきた「強く吸うストロー」
新しい方法として紹介されることが多いのが、2021年6月に医学誌JAMA Network Openに載った研究です。テキサス大学ヘルスサイエンスセンター・サンアントニオの医師が考案したもので、道具は弁の付いた硬いストロー。強く吸わないと水が上がってこない作りで、吸い込んで飲み込む動きで横隔膜を縮ませ、喉頭蓋を閉じさせる、という狙いです。
結果は、249人の回答で、しゃっくりが止まったのは92%近く。家庭での対処と比べて評価が高いと答えた人は、回答した203人のうち183人(90.1%)でした。比べる相手の「家庭での対処」には、紙袋での呼吸や、人に驚かしてもらうことが含まれています。
ただ、この数字はそのまま受け取らないほうがいいと思います。研究は利用者へのオンライン調査で、論文自身が「対照群がないこと」と「採点が主観的であること」を限界として挙げています。しかも考案した医師はこの道具の特許の発明者で、特許は製品を扱う会社にライセンス済み。
私は、専用の道具を買う前に、まず手元の水でできることを試すほうが現実的だと思っています。強く吸って飲み込むという動きは、息を詰めて水を飲むのとよく似ているからです。
※論文は Alvarez ほか「Evaluation of the Forced Inspiratory Suction and Swallow Tool to Stop Hiccups」JAMA Network Open 2021年4巻6号 e2113933(2021年6月18日公開)
2〜3日止まらないときは病院へ
ほとんどのしゃっくりは、治療をしてもしなくても止まります。短いしゃっくりなら、医師の診察は要りません。
気にするべきなのは長さです。MSDマニュアル家庭版は、2日より長く続くしゃっくりを「持続性のしゃっくり」と呼んでいます。まれですが、肺炎、胸や胃の手術のあと、腎臓の働きの低下などで横隔膜が刺激されて起きることがあり、原因が治るまで続く傾向があります。まれに、脳卒中や脳腫瘍が原因のこともあります。
受診の目安として書かれているのは次の2つです。
- 頭痛、力が入らない、しびれ、ふらつきといった症状を伴うときは、直ちに医師の診察を受ける
- そうした症状がなくても、しゃっくりが2〜3日以上続くときは医師の診察を受ける
しびれやふらつきを伴うしゃっくりは、止め方を試すより先に受診してください。68年続いたオズボーンさんのしゃっくりも、転んだときに脳の一部が傷ついたことが原因ではないかと、のちに医師が考えています。
まとめ
しゃっくりは、横隔膜のけいれんと、その直後に声門が閉じる動きのくり返しです。数分で止まるものがほとんどで、100回続いたからといって命に関わることはありません。68年間しゃっくりをし続けた人が、2度結婚して8人の子どもの父親になっています。
昔からの止め方のうち、息を止める、水を素早く飲む、紙袋で呼吸する(ビニール袋は不可)、グラニュー糖や乾いたパンを飲み込む、舌を引っぱる、といった方法は医学の本にも載っています。ただし効果は「ないか、わずか」という評価で、安全で簡単だから試しても害はない、という位置づけです。驚かす方法は、その一覧にも入っていません。
2021年には、強く吸って飲み込む専用ストローの研究も出ました。9割近くで止まったという結果ですが、対照群のないオンライン調査で、考案した医師は特許の発明者でもあります。新しい道具を買うかどうかは、この事情を知ったうえで決めれば十分です。
気にするべきなのは回数ではなく日数です。2〜3日以上続くとき、しびれやふらつきなどを伴うときは、医師の診察を受ける目安になります。
止まらないからといって、焦って次々と方法を試さなくてもいいと私は思います。多くは放っておいても数分で止まるので、止まればそれで終わり。話が変わるのは、止まらないまま日をまたいだときだけです。