「ウミガメのスープやろうよ」と言われて、問題を1つも思い出せなかったことがあります。
出題者が、謎めいた場面だけを読み上げる。まわりは「はい」か「いいえ」で答えられる質問を投げて、その裏にある事情を当てる。使うのは言葉だけで、道具もカードもいりません。2人いれば成立するので、車で移動している最中でも、相手が台所に立ったままでも始められます。
困るのは、やろうとなった瞬間に、答えまで覚えている問題を持っている人がほとんどいないことです。スマホで探せばいくらでも出てきますが、画面を見ながら読み上げると、出題の間がどうしても抜けます。
そのうえ、有名な問題はだいたい誰か1人が知っています。知っている人は気を使って黙っていてくれますが、その人のぶんの楽しみはそこで消えます。
この記事は、ウミガメのスープの問題を50問、答えと解説をつけて並べたものです。全部こちらで考えた書き下ろしなので、既出の問題が混ざる心配はありません。
似た遊びに「意味がわかると怖い話」がありますが、あちらは読んで気づく遊びで、こちらは質問して可能性を削っていく遊びです。水平思考という呼び名が広まったのは、1967年にエドワード・デ・ボノが出した本からです。
何度か出題してみて思うのは、盛り上がるかどうかは問題の出来よりも、出題者が「はい」「いいえ」をどれだけ機械的に返せるかで決まるということ。気をきかせて説明を足した瞬間に、その問題は終わります。
ウミガメのスープの遊び方と、水平思考という考え方
役は2つです。真相を知っている出題者と、質問する回答者。
回答者が投げられるのは「はい」「いいえ」で答えられる質問だけです。「どうして男は店を出たの?」は質問になりません。「男は店を出たとき、怒っていましたか?」なら質問になります。
出題者が返してよい言葉は3つ。「はい」「いいえ」、そして真相に関係しないときの「関係ありません」です。
この3語しか使えないところが、この遊びの肝だと思っています。説明を足せば正解は早く出ますが、早く出たところで誰も気持ちよくありません。
土台にあるのは水平思考(ラテラルシンキング)という考え方です。英語では lateral thinking といい、1967年にエドワード・デ・ボノが著書で使ったところから広まりました。
縦に深く掘るのが論理的な思考なら、横にずらして掘り直すのが水平思考。スープを飲んだ男がなぜ店を飛び出したのかを考えるとき、スープの味や値段をいくら掘っても出口はありません。前提そのものを疑って、別の場所を掘り始めるのが水平思考です。
参考:出版社の紹介ページ
入門編(第1問〜第10問)
まずは、場面さえ思い浮かべば届くものから。
第1問 合鍵の女性
女性は平日の昼間、他人の家の鍵を開けて中に入り、冷蔵庫を開けて中身を入れ替える。向かいの家の人はその様子を毎週見ているが、通報したことは一度もない。なぜ?
第2問 進まないランナー
男は30分走り続けた。息も上がっている。それなのに、ゴールまでの距離は1ミリも縮まっていない。なぜ?
第3問 歓迎される侵入者
そいつは夜中に窓から入ってきて、朝まで寝室に居座る。家族は全員気づいているのに、追い出そうとしない。なぜ?
第4問 何も買わない常連
男は毎日コンビニに寄るが、何も買わずに出ていく。それでも店員は、彼が来るのを待っている。なぜ?
第5問 減らない棚
その商品は1日に何十個も売れている。なのに、棚に並ぶ数は朝からずっと同じ。店員が補充している様子もない。なぜ?
第6問 開かない自動ドア
男が何度近づいても、自動ドアは開かない。壊れてはいない。次に来た女性のときは、すっと開いた。なぜ?
第7問 一周しない観覧車
男は観覧車のゴンドラに1人で乗り、数メートル上がったところで降りた。それを何度も繰り返している。係員は止めない。なぜ?
第8問 静かな工事現場
真夜中、男の目の前で重機が土をすくっている。耳は悪くない。それなのに、音がほとんど聞こえない。なぜ?
第9問 赤信号で進む車
交差点の信号は赤のまま。それなのに、車は次々と交差点へ入っていく。誰も違反していない。なぜ?
第10問 必ず座れる満員電車
朝の通勤時間、ホームは人であふれている。それでも女性は毎朝、必ず座って出勤する。グリーン車でも指定席でもない。なぜ?
家と街のなぞ(第11問〜第20問)
ここからは、家の中と、歩いていける範囲の話です。
第11問 誰もいないインターホン
毎晩9時すぎ、インターホンが鳴る。モニターには誰も映っていない。いたずらでも故障でもない。なぜ?
第12問 台所だけ出ない水
引っ越した部屋で、台所の蛇口からだけ水が出ない。断水ではなく、風呂もトイレも普通に出る。なぜ?
第13問 開かない宅配ボックス
暗証番号は伝票のとおり。何度入力しても、そのボックスは開かない。押し間違いでもない。なぜ?
第14問 夜だけ切れるWi-Fi
家のWi-Fiが、夜のある時間帯だけ切れる。障害情報は出ていないし、工事もしていない。なぜ?
第15問 鳴らない目覚まし
男の目覚ましは、ここ3年ほど一度も鳴っていない。壊れてはいない。それでも男は毎朝、同じ時刻に起きる。なぜ?
第16問 留守なのに減る水道
1か月まるごと家を空けた。帰ってきたら、水道の請求額は普段とほとんど変わらない。誰も家に入っていない。なぜ?
第17問 光らない新品の電球
廊下の電球が切れたので、新品に替えた。それでも光らない。買ってきた電球は不良品ではなく、配線も切れていない。なぜ?
第18問 空室からの足音
毎晩、上の階から足音が聞こえる。管理会社に聞くと、その部屋は半年前から空室だという。なぜ?
第19問 1社だけ届かない郵便
住所は合っている。ほかの郵便物は普通に届く。それなのに、ある会社からの封筒だけ一度も届かない。なぜ?
第20問 開かない新築の窓
建てたばかりの家で、その窓だけどうやっても開かない。建付けが悪いわけでも、鍵が固いわけでもない。なぜ?
ぞっとする編(第21問〜第30問)
怖がらせにくる10問です。半分は現実的な理屈で片づいて、半分は片づきません。
第21問 写り込んだ指
一人旅から帰った女性が、写真を1枚だけ削除した。写っていたのは、画面のすみに入り込んだ誰かの指。女性には、その指に心当たりがない。なぜゾッとしたのか?
第22問 留守番電話
出張先の男の携帯に、自宅の番号から留守電が入っていた。「もう寝るね」という妻の声。妻は3日前から実家に帰っている。なぜ?
第23問 片側だけ濡れた傘
雨の日、帰ってきた夫の傘は、片側だけがきれいに濡れていた。傘は壊れていない。なぜ?
第24問 窓の外の人
幼い娘が描いた家族の絵には、父と母と娘のほかに、もう1人立っていた。娘は「いつも窓の外にいる人」と言う。その部屋は2階にある。なぜ?
第25問 圏外で鳴る携帯
山で見つかったリュックの中から、携帯の着信音が鳴り続けていた。その場所は圏外で、電話はつながらない。なぜ?
第26問 乗らなかったエレベーター
夜遅く帰宅した女性は、開いたエレベーターに乗らず、1本見送った。中にいた男は何もしていないし、声もかけていない。なぜ?
第27問 父からの着信
男のスマホに、3年前に亡くなった父の携帯番号から着信があった。番号は登録したまま残してある。なぜ?
第28問 雪の朝の足跡
雪が積もった朝、玄関の前に足跡が1人分あった。外から玄関へ向かう足跡だけで、戻っていく足跡はない。配達の人でもない。なぜ?
第29問 早すぎる弔問
訃報を知らせる前に、玄関に黒い服の男が立っていた。家族の誰も連絡していない。なぜ?
第30問 ベビーモニターの泣き声
深夜、ベビーモニターから赤ん坊の泣き声が聞こえた。だが赤ん坊は、母親の腕の中で眠っている。なぜ?
画面の向こうのなぞ(第31問〜第40問)
スマホとパソコンまわりの10問。ここは、答えがそのまま対処法になります。
第31問 戻っていた資料
1時間かけて資料を直し、上書き保存して帰った。翌朝そのファイルを開くと、直す前の状態に戻っている。保存に失敗したという表示は出ていない。なぜ?
第32問 つながっているのに開かない
スマホはWi-Fiにつながっていて、電波も4本立っている。それなのに、どのページも開かない。同じ家のパソコンは普通に使える。なぜ?
第33問 印刷すると消える文字
画面にははっきり見えている赤い書き込みが、印刷すると1文字も出てこない。インクは残っているし、ほかの文字はきちんと印刷される。なぜ?
第34問 届かないメール
送ったメールが、ある相手にだけ届かない。宛先は合っていて、エラーも返ってこない。なぜ?
第35問 勝手に動くカーソル
誰も触っていないのに、画面のカーソルがすっと動く。ウイルスでもない。なぜ?
第36問 寝ている間に増える通信量
夜は充電して寝ているだけ。それなのに、朝になると通信量が1GB近く増えている。なぜ?
第37問 映らないカメラ
ビデオ会議で、自分の顔だけが映らない。カメラは壊れていないし、前日までは映っていた。なぜ?
第38問 夜だけ遅いネット
昼間は快適なのに、夜になるとページが開かない。契約はいちばん速いプランで、機器も新しい。なぜ?
第39問 添付のない添付ファイル
相手から「ファイルが付いていない」と連絡が来た。送信済みのメールを見ると、ちゃんと付いている。なぜ?
第40問 止まらない請求
使わなくなったアプリは消した。それなのに、毎月の請求だけが止まらない。身に覚えのない請求ではない。なぜ?
難問編(第41問〜第50問)
最後の10問は、前提を2つ外さないと届きません。
第41問 音のない拍手
満員のホールで公演が終わると、客席がいっせいに手を上げて振った。拍手の音はほとんどしない。不満があるわけではない。なぜ?
第42問 ゴールが1番でない優勝者
マラソン大会で、最初にゴールテープを切った選手が優勝しなかった。コースを間違えたわけでも、失格になったわけでもない。なぜ?
第43問 書けないボールペン
新品のボールペンが、どうしても書けない。インクはたっぷり残っていて、紙は普通のコピー用紙。寒くもない。なぜ?
第44問 太らないケーキ係
男は毎日、何種類ものケーキを食べている。運動はしていない。それでも体重は1年間ほとんど変わらない。なぜ?
第45問 同じ部屋の別の部屋
出張中の男は、昨夜と同じ番号の部屋の鍵を受け取った。入ってみると、昨夜とは造りが違う。ホテルの手違いでもない。なぜ?
第46問 読まない新聞
男は毎朝、駅の売店で新聞を買う。1面も開かずに丸めて、そのまま仕事場へ持っていく。なぜ?
第47問 時刻表にない電車
ホームに電車が入ってきた。時刻表のどこにも載っていない時刻で、ドアは開かず、すぐに出ていった。事故でも遅れでもない。なぜ?
第48問 1時間ずれた時計
男の腕時計とスマホの時刻が、ぴったり1時間ずれていた。どちらも故障していないし、電池も切れていない。なぜ?
第49問 カメラ目線の猫
写真の猫は、まっすぐこちらを見ている。だが撮影者は、猫の後ろに立っていた。猫は一度も振り返っていない。なぜ?
第50問 最後の問題
ある人は、この50問目を読んだ瞬間に答えが分かった。勘がいいわけでも、同じ問題をどこかで知っていたわけでもない。なぜ?
出題する側にまわるときのコツ
出題は、思っているより難しい役です。真相を知っている人がいちばんしゃべらないので、やることが少ないように見えて、判断はずっと出題者の側にあります。
4つだけ決めておくと、だいぶ楽になります。
- 「関係ありません」を惜しまない。言い渋ると、回答者は関係のない方向を掘り続けます
- 答えに近い質問が来たら「かなり近いです」とだけ言う。近いことを隠しても場が長引くだけです
- 10分で止める。解けないまま終わるより、解けないと分かったところで答えを出すほうが後味がいい
- 出す前に、自分で1回解いてみる。質問1つで割れる問題は、出した瞬間に終わります
ヒントを出すなら、答えではなく「どこを見るか」を渡します。「この問題で大事なのは、男の職業です」くらいが限界で、それ以上は答えを言ったのと同じになります。
紙の本で遊びたいなら、2004年に出た2冊が手に入りやすいです。エクスナレッジの『ポール・スローンのウミガメのスープ 水平思考推理ゲーム』と、同じ年にバジリコから出た『ウミガメのスープ 推理クイズ道場』。前者は海外の水平思考パズルの翻訳で、後者は2ちゃんねる監修です。日本で呼び名が広まった時期とは重なりますが、どちらが先に広めたのかまでは、私には断定できません。
まとめ
出題者が使う言葉は、たった3つです。「はい」「いいえ」「関係ありません」。
この3つしか返さないと決めた時点で、場の主導権は回答者のものになります。答えを知っている人がいちばん無口になる遊び、と言ってもいいかもしれません。
水平思考という言葉自体は1967年にエドワード・デ・ボノが使い出したもので、いまはビジネス書の文脈で語られることのほうが多いかもしれません。この遊びでやっているのは発想法の訓練というより、前提を1つずつ外していく作業に近いものです。窓から入ってきた「そいつ」が人間だとは誰も言っていませんし、赤く見えた信号が車のためのものだとも言っていません。
答えを聞けば1行で終わる話を、質問だけで何分もかけて掘り当てるのが、この遊びのすべてです。
他愛ない遊びのつもりで作っていたのに、答えがそのまま現実の手順になった問題もいくつか混ざりました。ZIPを解凍しないまま編集すると保存した内容が消えること、迷惑メールに落ちた相手にはエラーが返らないこと、アプリを削除しても契約は止まらないこと。クイズの答えとしては1行で終わりますが、実際に食らうと半日は溶けます。
私は以前、思いついたばかりの問題を得意げに出して、最初の質問に「はい」と答えた時点で真相まで当てられました。出す前に自分で1回解いていれば気づけたはずで、あれは問題のせいではありません。
手元に1問だけ残すとしたら、私は第26問のエレベーターを選びます。答えを聞いたあとで、自分なら同じ場面でどう動くかをつい考えてしまうからで、他愛ない遊びのはずなのに、あれだけは少し尾を引きました。