新しい絵文字は誰でも申請できる|審査基準はまさかのゾウ

大草原のゾウ

スマホで文字を打っていて、「これを表す絵文字、なんで無いんだろう」と思ったことはありませんか。

私はしょっちゅうです。仕事の連絡で「ちょっと困ってます」を伝えたいのに、汗の絵文字は大げさすぎるし、真顔は冷たい。結局いつもの顔に落ち着く、というやつです。

で、ある日ふと気になりました。あの絵文字たち、そもそも誰が決めているのか。

調べてみると、決めているのはUnicodeコンソーシアムという団体で、新しい絵文字の提案は驚くほど開かれていました。個人でも、非営利団体でも、企業でも、政府でも出せる。会員企業だから優遇される、ということもありません。

ただし、通るかどうかはまったく別の話です。公式のガイドラインを頭から読んでいくと、条件がなかなかに厳しく、しかも独特でした。新しい絵文字は誰でも提案できますが、採用されるには「ゾウと比べてどれだけ検索されているか」という証拠が必要で、ロゴや特定の人物、流行りものは出した時点で自動的に落とされます。

署名を集めても意味がない、という一文まで堂々と書かれています。ネットでときどき見かける「この絵文字を作ろう」キャンペーン、実は審査には1ミリも効いていなかったんですね。

この記事では、Unicodeの公式ガイドラインとFAQをもとに、絵文字が生まれるまでの流れと、落ちる条件を整理しました。ちょうど今月には次の絵文字が決まる予定なので、その顔ぶれも最後に紹介します。

絵文字は誰でも提案できる

絵文字を管理しているのは、Unicodeコンソーシアムという非営利団体です。

ここが新しい絵文字の提案を受け付けています。公式FAQには、この仕組みが個人から非営利団体、企業、政府まで誰にでも開かれていると明記されていて、さらにUnicodeの会員企業が出した提案にも、まったく同じ選定基準が適用されると書かれています。大手だから通る、という世界ではないわけです。

提出はPDFで行います。作った提案書を誰でも見られる場所に置き、そのURLを公式フォームから送る。メールもFAXも紙の郵送も受け付けていません。

そして受付はいつでもというわけではなく、期間が決まっています。2026年は4月2日に開き、7月31日で締め切られました。次に開くのは2027年です。

提出した人には、11月30日までに結果が通知されます。ただし「たくさんの提案が届くので、進捗の問い合わせには答えられない」という但し書きつき。ガイドラインの冒頭には、すべての提案を審査するが実際に符号化まで進むのはごく一部だ、とも書かれています。

参考:Unicode公式のFAQ

審査の物差しはゾウ

提案書でいちばん分量を食うのが、「その言葉が世の中でどれだけ使われているか」を示すパートです。

熱意ではなく、数字で出さなければいけません。指定されているのは5つ。Google検索、Google動画検索、Googleトレンドのウェブ検索、同じくトレンドの画像検索、そしてGoogle Books Ngram Viewer。この5つの結果をスクリーンショットで貼れ、という指定です。

ここでトレンドの2つには、必ず入れなければならない比較語があります。

「elephant」。ゾウです。

ゾウとの比較グラフを添えるのが必須条件。初めて読んだときは、思わず二度見しました。世界中の言語で安定して使われていて、流行り廃りもなく、誰もが知っている。基準線としてちょうどいい言葉なのでしょう。あなたが提案したい絵文字は、ゾウと並べても見劣りしない知名度がありますか。それが審査の入り口です。

検索のやり方まで細かく決まっているのも面白いところ。個人化の影響を避けるためプライベートウィンドウで検索する、「mammoth」だけだとスキー場の名前が混ざるので「animal mammoth」のようにカテゴリの語を足す、複数語は「black-swan」のようにハイフンでつなぐ。ハイフンでつながないと、1段落目に「black」、最終段落に「swan」があるだけの無関係なページまで件数に入ってしまうから、という理由まで添えられています。

参考:絵文字提案のガイドライン

署名を集めても効かない

「この絵文字を作ろう」というネット署名、見たことがある人もいると思います。

あれ、審査ではゼロカウントです。

ガイドラインには、署名もSNSのハッシュタグも個人の体験談も、根拠としては受け付けないと書かれています。理由も具体的で、署名には重複票やボット票が混ざるうえ、企業や特定の団体のキャンペーンで数字が簡単に動いてしまうから。

おまけに実例まで名指しで挙がっています。タコスの絵文字をめぐって商業的な署名活動がありましたが、あれは選定に一切関係なく、提案書に添えられた証拠で採用されたのだ、と。

FAQ側も同じ調子です。有名人や政府関係者からのメール、手紙、投稿でも動かない。そしてもうひとつ唸ったのが「大義」の扱いでした。どんなに立派な理念を掲げても、それを理由に絵文字が増えることはない。他の要素が十分に強ければ大義があっても前に進むことはあるが、大義があるから進むことはない、という書き方です。

一発でアウトになる条件

中身を評価してもらう以前に、出した瞬間に却下されるカテゴリーがあります。

ガイドラインが挙げているのは次のとおりです。

  • ロゴ、ブランド、第三者に権利がある画像、UIアイコン、標識
  • 特定の人物(架空・歴史上・存命・故人を問わない)
  • 特定の建物、ランドマーク、場所
  • 国や地域の旗(ISO 3166-1のコードがあるものは提案なしで自動的に追加されるため、そもそも受け付けていない)
  • 絵柄そのものを指定してくるもの
  • 文字が入っているデザイン
  • 向きを変えただけのもの(逆向きに滑るスキーヤーなど)
  • 画像の権利やライセンスが揃っていないもの

最後の項目は、思っていたより重い条件でした。提案者は、添える画像の権利を自分が持っていること、あるいはパブリックドメインかオープンソースライセンスであることを保証しなければなりません。ガイドラインには「AIツールの助けを借りて作った画像でも同じ」と、わざわざ書き添えられています。

なぜここまで神経質なのか。理由は身も蓋もなくて、一度Unicodeに入った絵文字は二度と削除できないからです。

だから提案の段階で、永久・世界規模・無償のライセンスを渡すことに同意させられる。そう考えると、ロゴやキャラクターが門前払いなのも納得です。

よくある落選パターン

自動却下をくぐり抜けても、まだ関門は残っています。「これがあると不利になる」要素です。

まずは、すでに表せてしまうもの。手洗いは水しぶきと石けんと手のひらを並べれば表現できますし、リスはシマリスの絵文字で代用されている。ハロウィンならカボチャひとつ、あるいはカボチャとおばけの並びで足ります。どれもガイドラインに載っている実例です。

細かすぎるのも不利になります。寿司の絵文字は寿司全般を表す記号なので、そこにサバやハマチや甘エビを足すのは行き過ぎだ、という説明があります。フクロウの別の種類も同じ扱いです。

際限がないものも敬遠されます。犬種やビールの銘柄のように、ひとつ入れたら「じゃあうちのも」が永遠に止まらなくなるジャンルですね。

個人的にいちばん好きなのが「誤った比較」の項目でした。郵便受けの絵文字が4種類もあるからといって、それより重要な郵便受けを足す理由にはならない。東京タワーがあるからエッフェル塔も、という論法も通らないw

この背景にあるのは、毎年入れられる数に上限があるという現実です。ひとつ足すことは、ひとつ落とすこと。カテゴリの多くはすでに飽和に近づいていて、承認される提案は年々減っている、とはっきり書かれています。

人型は1つで18個ぶん

枠の重さがよく分かる数字があります。

人の姿をした絵文字を1つ足すと、性別3種類と肌の色6種類の組み合わせで、合計18個のバリエーションが増える。FAQに出てくる計算です。キーボードの使い勝手と端末のメモリを圧迫し、その影響は新興国の安価なスマホで特に大きい、と続きます。絵文字ひとつが、思っている以上に重い荷物なんです。

4年間は再提案できない

落ちたらすぐ出し直せばいい、ともいきません。却下された絵文字は、そこから4年間は再審査の対象になりません。1つの提案書に複数の絵文字を詰め込む「まとめ売り」も、今は受け付けていない決まりです。

なお、2015年以降に出された提案の状況は一覧で公開されています。更新は年に1回、だいたい12月の頭。自分のアイデアがすでに「検討中」に入っていれば、追加で提案する必要はありません。

参考:採用された提案書の一覧

土壇場で消えたリンゴの芯

審査を通ったからといって、まだ安心はできません。

2025年9月に公開されたEmoji 17.0では、ドラフトに8個の新しい絵文字が並んでいました。ところが実際に世に出たのは7個。「りんごの芯」が、リリース直前で外されたのです。

Emojipediaによれば、Unicode自身のリリース告知は「8つの新しい絵文字」と書かれたままだったそうで、その削除がいかに土壇場だったかが伝わってきます。ドラフト段階の候補が取り下げられたのは2017年以来のことでした。

しかもこのりんごの芯、続くEmoji 18.0のドラフトからも外すよう勧告され、事実上ストップしています。提案して、証拠を集めて、審査を抜けて、それでも最後の最後で消えることがある…。絵文字ひとつの道のりは、想像よりずっと険しいです。

参考:Emojipediaの解説記事

次の絵文字はもう決まっている

では、次に増えるのは何なのか。

Unicodeが公開しているβ版のチャートを見ると、Emoji 18.0の候補9種がすでに並んでいます。

  • ひび割れた顔
  • 左向きの親指
  • 右向きの親指
  • オオカバマダラ
  • ピクルス
  • 灯台
  • 流星
  • 消しゴム
  • 柄付きの網

親指の2つには肌の色のバリエーションが付くので、コードポイントの数でいうと19個の追加になります。さっきの「人型は18個ぶん」という話が、さっそく実演されている形ですね。

ピクルスと消しゴムと灯台が同じ年に生まれるのだと思うと、なんだか妙な取り合わせで笑ってしまいます。ちなみに現在の絵文字の総数は、構成要素を含めて3,953。ここに19が乗る計算です。

これを含むUnicode 18.0は2026年9月に公開される予定ですが、公式ページの日付欄はまだ「9月NN日」のままで、ステータスも「DRAFT」。名前も最終決定までに変わることがある、とガイドラインに明記されています。決まったように見えて、まだ動くということですね。

参考:Unicode 18.0のβ版チャート

スマホに届くのは半年後

ここで気をつけたいのが、承認された日と、自分のスマホで打てるようになる日はまるで別物だということ。

Unicodeが決めるのは「この絵文字を入れる」という枠組みまでで、実際に絵を描いて配るのはAppleやGoogle、Samsungといった各社です。だから公開から搭載まで、半年から1年ほどの時間差が生まれます。

Emoji 17.0がまさにそうでした。2025年9月に公開され、Googleがデザインを見せたのはその直後。AndroidやiOSに広く届いたのは2026年の春先で、FacebookやMicrosoftはさらにあと、というスケジュールだったとEmojipediaは伝えています。新しい絵文字を送ったのに相手の画面では見えない、という現象はここから起きます。

そしてもうひとつ。同じ絵文字でも、端末やアプリによって絵柄はけっこう違います。送った側と受け取った側で印象が変わることもあるので、頭の片隅に置いておくと安全です。

まとめ

絵文字が生まれるまでの道のりを、公式の資料から追いかけてみました。

整理すると、こうなります。提案は誰でも出せる。ただし受付は決められた期間だけで、PDFの提案書と、指定された5種類の検索データが要る。トレンドの比較にはゾウを入れる。ロゴ、実在の人物、特定の建物、神は出した時点でアウト。すでに他の絵文字で表せるもの、細かすぎるもの、一過性の流行りものは不利。落ちたら4年間は出し直せない。

絵文字は人気投票で選ばれているのではなく、証拠を揃えた提案書だけが通る、かなり厳格な審査の産物でした。

調べていていちばん面白かったのは、あの膨大な絵文字の中に、日本発の名残がそのまま残っていることです。ガイドラインには、初期のセットが日本で生まれたために、東アジア特有に見える絵文字が混じっている、とはっきり書かれています。「指」や「新」の記号のことですね。世界中で使われる仕組みの土台に、日本の携帯電話の事情が化石みたいに埋まっている。これはちょっと誇らしい話です。

そして絵文字は、一度入ったら永久に消えません。だからこそUnicodeはあれだけ慎重で、ゾウとの比較まで求めてくる。使い道のない絵文字が半永久的に居座り、そのぶん誰かの絵文字が入れなくなると考えれば、あの厳しさは正しいのだと思います。

次の受付は2027年です。「この気持ちを表す絵文字がない」と本気で思っているなら、まずは提案の状況一覧で先客がいないかを確認するところから。そのうえでGoogleトレンドを開いて、あなたのアイデアをゾウと勝負させてみてください。1年あれば、証拠集めの時間としては十分すぎるほどあります。

この記事をシェア

コメントを書く

投稿は管理人が確認したあとで表示されます。